犬の歯と歯みがき (1)

文と写真:アルシャー京子

歯の根元が薄っすらと茶色くなってきたら歯石は出来始め。ご用心あれ!

愛犬の顔が近づいてきたとき、「臭い」と感じる飼い主は多いと思う。そしてその臭いの元は歯に付いた歯石であることが多い。

犬の歯みがきは近頃でこそいろいろとテーマに上がるようになったけれど、一昔前までは一体誰が頭にめぐらせたものか。しかし、歯の健康は(ヒト同様)犬にとっても体全体の健康に繋がるのである。

犬(ピンシャー)の頭蓋骨を横から見たところ。(Albert Heim Stiftung所蔵、「Vom Wolf zum Rassehund」Raeber著より)

ヒトの歯と違う犬の歯の構造

犬の歯を見るとその本来の食性がよく分かる。成犬の歯は上下あわせて42本、そのうち両側の犬歯に挟まれた前歯は上下あわせて12本、これらはヒトの前歯のように食物を噛み切るのではなくむしろ食物をトングのようにはさむ役目をする。犬の頭蓋骨の形がオオカミとほぼ似たプロポーションを保っている犬種(ジャーマンシェパードなど)では上下前歯がぴったり同じ位置で合っている(シザーズ)か上前歯が下前歯の前にほんの少し出ている(オーバー)かである。

かみ合わせは犬種によって大きく差があり、例えば短吻犬種(ボクサーやペキニーズなど)では上顎よりも著しく下顎が突き出ている(反対咬合、アンダー)けれど、その逆に頭の細長い犬種(サイトハウンド種、コリーなど)では上顎が下顎よりも明らかに前に出る。

前歯に続く犬歯はその名の通り犬の姿を象徴する牙で、獲物をしっかり捕らえるためになくてはならない大事な歯である。

犬歯の後方には前臼歯が4本、そのうち前3本は小さくあまり機能していないおまけみたいなもの。第四前臼歯は大きく、上下の第四前臼歯同士と臼歯を合わせてハサミのように使い、肉を切り削ぐ。尖った山形なのに「臼」歯とはただ単にヒトの解剖学を犬に応用しただけなのだけど、犬にとってはこの臼歯のかみ合わせは前歯のかみ合わせよりも重要である。

ペキニーズの頭蓋骨。犬本来の長い鼻面が極端に短く改良されたことにより歯並びもかみ合わせも大きく変化した。(Albert Heim Stiftung所蔵、「Vom Wolf zum Rassehund」Raeber著より)

また犬の歯のエナメル質は非常に硬く本来骨を噛み砕くことができるほど。そもそもは自然から与えられたこの歯の硬さを犬は存分に使うべきだろう。

硬いものを噛むと言う行為はまず歯を鍛えることになる。次に歯の表面を硬いものでこすることにより磨くことにもなる。特に毎日缶フードや柔らかいものばかりを食べているとこの「磨く」という行為がなされず、歯の表面にはいつしかべっとりと歯垢が残り、やがては歯石へと変化してゆく。

そう、犬の場合は虫歯よりも歯石が問題なのである。

(本記事はdog actuallyにて2009年5月29日に初出したものをそのまま公開しています)