日本の災害現場では消防士がペットを救命処置できない〜立ちはだかる法律の壁(前編)

文:サニーカミヤ


[photo by Andy Belshaw]

不十分な災害時の動物への対応

オーストラリアで2019年後半から2020年にかけて発生した大規模森林火災。コアラやカンガルーなどの野生動物約30億匹が犠牲になったといわれている。火災から何とか逃れて生き延びたコアラに消防隊員がペットボトルの水を差し出して与えたり、やけどを負ったコアラなどの野生動物の応急手当や命の救助を行った様子は世界中に拡散され、大きな絶賛を浴びた。

豪、野生動物30億匹が被害に 昨年からの森林火災で(共同通信) - Yahoo!ニュース
 【シドニー共同】環境保護団体、世界自然保護基金(WWF)オーストラリア支部は28日、同国で今年2月ごろまで約半年間続いた森林火災で死んだり、生息地を追われたりしたコアラやカンガルーなどの野生動物が

日本では災害時における動物への対応について、災害対策基本法に基づく防災基本計画や動物の愛護および管理に関する法律が存在するものの、獣医師会と消防・警察・自衛隊などの相互連携・遠隔支援システムについては十分に整備されているとはいえない。

また、現行の獣医療を提供する体制の整備を図るための基本方針(平成22年8月、農林水産省:獣医事審議会計画部会にて新しい同指針について現在審議中)には、災害時における動物への医療に関する言及自体がない。

しかし近年の自然災害の増加に伴い、人道的にも動物愛護の精神からも災害で被災した動物の救命・救急・救助・救出・救護は喫緊の課題であることは、東日本大震災をはじめ、さまざまな自然災害で改めて明らかになった。また、放置された動物による人への咬傷被害、人への感染症のリスクも存在する。

慰謝料が認められる裁判例も

ペットが死傷した場合、発生する損害の種類は物的な損害になるが、飼い主がそれを大切な家族とみなしていれば、ペットは特別の主観的・精神的価値を有することになる。財産的損害の賠償を認めただけでは償い得ないほど甚大な精神的苦痛を被った場合に、例外的に慰謝料が認められるとする裁判例はかなりある。

例として、平成20年9月30日名古屋高裁判決では、ペットに関する慰謝料について、「飼い主との間の交流を通じて、家族の一員であるかのように、飼い主にとってかけがえのない存在になっている」「動物が不法行為により重い傷害を負ったことにより、死亡した場合に近い精神的苦痛を飼い主が受けたときには、飼い主のかかる精神的苦痛は、主観的な感情にとどまらず、社会通念上、合理的な一般人の被る精神的な損害であるということができ」る旨判示した。

その上で、第二腰椎圧迫骨折に伴う後肢麻痺の傷害を負った飼い犬について、飼い主との交流を通じて家族の一員であるかのようにかけがえのない存在になっていたと認定し、飼い犬の負傷の内容や程度、飼い主らの介護の内容程度などを考慮して、飼い主2人に対しそれぞれ20万円、合計40万円の慰謝料を認めている。

当該事案はペットが死亡していないが、高額な慰謝料を認めた事例としては特殊である。だが判例として参考になる。

判決情報
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/950/036950_hanrei.pdf
事件番号:平成20(ネ)483
事件名:損害賠償請求控訴事件
裁判所:名古屋高等裁判所 民事第4部
裁判年月日:平成20年9月30日
1 交通事故によりペットである犬が負傷した場合において,治療費,慰謝料等を損害として認めた事例
2 車に同乗させていた犬が交通事故により負傷した場合において,犬用シートベルトなど動物の体を固定するための装置を装着させるなどの措置を講じていなかったことを理由に過失相殺を認めた事例

このような状況のもと、災害現場での人命救助は優先しながらも、動物の救命措置については二次災害の危険があるため消防・警察・自衛隊(軍)による活動が大変有益であり、実際、米国では大きな成果を上げている。


[photo by Sid]

横断的な取り組みが必要に

しかし、日本では前述の法律やシステムの未整備などから消防士・警察官・自衛隊員による災害現場での動物の救命措置は十分に組織化されていない。

例えば、火災や交通事故、自然災害現場で消防士や自衛官、警察官などが心肺停止の家庭動物(犬、猫、小動物)に目の前で遭遇し、一刻も早い救急救命処置を要する必要があっても、獣医は消防隊と同じタイミングで現場出動することはない。

また現状では、現場の消防隊員が無線で獣医師から動物の救急救命のための指示を受けたり、求めることもないため、家庭動物を火災現場内から屋外に救出できたとしても、心肺蘇生法や酸素投与を行うことができない。

瀕死の状態の家庭動物を発見後、消防指令センターなどから獣医を手配したとしても、獣医が現場に向かう間に家庭動物は救命処置が間に合わず死に至り、戻らぬ命となってしまう。

さらにその惨事の一部始終に遭遇した消防士が「家庭動物を助けてあげられなかったこと」を悔やみ、また、自分が飼っているペットと感情を重ね合わせてしまい、惨事ストレスになることさえある。

火災現場から飼い主は助けることができても、一酸化炭素中毒などで心肺停止したペットを現場で救命救急法を施して助けられないのは、人道的にいかがなものだろう? 動物愛護の精神に反しないのだろうか?

災害時は平常時とは明らかに異なるため、事前に火災や交通事故をはじめ、災害時における家庭動物の救急救命についてのプロトコルを作成しておき、心肺蘇生法、人工呼吸、保温、止血などを許可すべきだと思う。

環境省、総務省消防庁、厚生労働省の担当者、獣医師会の先生方は日本国における消防士・警察官・自衛隊員による災害現場での動物の救命措置について、その問題点の洗い出しや解決策について見解を踏まえた取り組みを進めていく必要があると思う。

「通常災害(火災や交通事故など)と自然災害時における被災動物(犬および猫などの小動物)の救命救急処置に関する在り方検討会」を開催し、飼い主はもちろん、現場に居合わせた人、災害対応関係機関や団体など、全ての人々が救命救急処置を行えるような具体的な法整備と仕組みが必要だろう。

(後編へと続く)

本記事はリスク対策.comにて2020年1月24日に初出したものを一部修正し、許可を得て転載しています

文:サニー カミヤ
1962年福岡市生まれ。一般社団法人 日本防錆教育訓練センター代表理事。元福岡市消防局でレスキュー隊、国際緊急援助隊、ニューヨーク州救急隊員。消防・防災・テロ等危機管理関係幅広いジャンルで数多くのコンサルティング、講演会、ワークショップなどを行っている。2016年5月に出版された『みんなで防災アクション』は、日本全国の学校図書館、児童図書館、大学図書館などで防災教育の教本として、授業などでも活用されている。また、危機管理とBCPの専門メディア、リスク対策.com では、『ペットライフセーバーズ:助かる命を助けるために』を好評連載中。
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