犬は美しい自然の一部:スウェーデンの保護犬シェルターを訪れて

文と写真:金森万里子

[Photo by Rikako Fujita]

スウェーデンのドッグシェルターで見た、Heroという保護犬のストーリーが書かれたポスター(写真下)です。使われている写真に、少し驚きました。だって、まるで何かの写真集のように美しい自然の中で、生き生きとした犬の姿がとても素敵だったから。

Heroという保護犬のストーリーがポスターとしてシェルターに貼られていた。シェルターで引き取られ、新しい家族がみつかり、そしてその後どのように家族と過ごしているかが記されている。美しい自然の中で生き生きと暮らすHeroの様子がうかがえる。「彼はとてもアクティブな犬生を送っています」とも記されている。

 

湖畔で遊ぶHeroの姿。「Heroは新しい家族のもとで若犬として輝き成長をしています」

Heroは、森の中でぼろぼろの姿になっているところを通報され、シェルターに保護されました。状態はとても悪くて、スタッフは誰もが絶望的な気持ちになったそうです。しかし彼はどんどん回復し、今は新しい家族と一緒に生き生きと暮らしています。

エンリッチメントの行き届いた犬舎

アニマルシェルターを見ると、その国の動物に対する考え方を知ることができる。そんなことを聞いて、今回はスウェーデンにある2つの保護犬施設のうちのひとつ、ストックホルムのHundstalletというドッグシェルターを見学しました。NPO法人スウェーデン犬保護協会が、個人や企業からの寄付金によって経営しています。犬にとって静かで安定した環境を守るため、通常一般公開はしていないのですが、1年間に3回オープンハウスイベントを行っています。大勢の人が訪れていて、入るまでに1時間くらいかかりました。犬を連れてきている人がほとんどで、すれ違った人とおしゃべりしたり、犬どうしを遊ばせたりしています。

シェルターの犬舎は屋内外を自由に行き来できるようになっており、色々なおもちゃが置いてあります。少し驚いたのは、すべての犬舎に葉っぱ付きの枝が置かれていたこと。

「そのほうが、犬にとっても嬉しいでしょ?」

と、隣り合わせた女性が教えてくれました。楽しそうに枝や葉っぱをかじっていました。

1頭の犬につきこの広さ。犬の犬舎は外と室内に別れており、犬のドア(写真中央上に見える)を通って室内犬舎に入れる。出たり入ったりは犬の自由。スウェーデンでは犬一頭につき、そして犬の大きさによって最低どれぐらいの大きさの犬舎であるべきか保護法で決められている。のみならず、1日中犬を犬舎に入れておくのは禁じられている。少なくとも必ず1日1回は犬舎の外にだすことと定められている。

各々の犬舎には高台が設置されています。これは犬にとってとても大事なエンリッチメント環境で、動物保護法にも設置の義務が明記されているそうです。頂上でお昼寝している犬もちらほら。

オープンハウスイベントの様子。たくさんの人々が犬舎を訪れた。

自然の中で生き生きとすることが犬らしさ

会報誌には、新しい家族とともに生き生きと過ごす犬たちの写真がたくさん掲載されています。これもまた、息をのむような素晴らしい風景ばかり。私はこれを見て、スウェーデンでは犬が森の中で走ったり、臭いをかいだり、湖を泳いだり、自然の中で生き生きと力を発揮させてあげることが、犬を愛することなんだ、と感じました。そんな犬とのアクティビティを、飼っている人自身もとても楽しんでいるんだろうなと思います。

年会費は250kr (およそ3000円)。メンバーになるとこの会報誌「Hundstallet」が送られてくる。Hundstalletの言葉が意味するのは「犬の預かり所」。

このシェルターを見学して、一頭一頭がとても丁寧に扱われ、犬にとって居心地のよいエンリッチメントに溢れた環境を提供するための最大限の努力がされていると感じました。とても素晴らしいことだと思います。

しかし、Hundstalletのスタッフ自身は、施設は犬にとって最適な場所であるとは考えていないようです。「もし飼い主が見つからなかったら、彼らは殺されるのでしょうか?」ホームページのQ&Aコーナーの回答に、こんな箇所がありました:

ドッグシェルターで長い間生活した犬は、情熱を失い、無気力になって悲しそうにし、「施設化」されていきます。それゆえ、施設で犬が送る1年間の生活を、私たちは正当化してはいません!(注)犬は愛される家族とともに暮らしたいのであって、施設で暮らしたいわけではないのですから。(もちろん私たちはシェルターの犬たちに精一杯の愛情を注いでいますけれども)

引用:https://hundstallet.se/om-oss/

(2019年12月31日アクセス、日本語訳:金森)

(注)委員会の規則により、1年間引き取り手が見つからない場合は譲渡は難しいとされ、安楽殺することが定められています。しかし、今までそのような例は起きたことがないそうです。実際には、譲渡可能かどうか早い段階で判断されており、とても深刻な病気や危険な犬の場合は、安楽殺を行うことがあるそうです。

安楽殺がつらい決断であることは、国を超えて共通していると思います。私がこのシェルターを見学して感じたのは、そうならないように、犬が安心できる家族関係や、生き物として自然を楽しめる生活を、とても大切にしているということです。そのために、たくさんの予防策が張り巡らされています。NPO法人や、行政・警察との連携。飼い主同士のネットワーク。犬と一緒に過ごしやすい環境づくり。きっとまだまだあることでしょう。他にはどんな仕組みが役立ちそうでしょうか?

あなたは、犬をどんなふうに愛したいですか?

  • Hundstalletには、一般からの通報や警察を通して、1年で約500頭の犬が保護されます。そのうち100頭が迷い犬で飼い主のもとへ帰り、100頭が環境を改善したうえで飼い主のもとへ戻り、残りの300頭は新しい飼い主に引き取られるそうです。一度に30-40頭ほどがこの施設で生活しています。
  • ここで紹介したような、一般の人が様子を観察できる犬は、既に回復し新しい飼い主に引き取られる準備ができている犬です。ポスターやホームページには、それぞれの犬について、どんなものが好きか、どんな活動に適しているか、子どもと過ごせるか、他の犬は大丈夫か等、細かく情報が載っています。

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文:金森万里子
獣医師、公衆衛生修士。北海道大学獣医学部を卒業後、道内で牛の臨床獣医師として勤務した経験を活かし、牛から人へ視点を変えて、健康な地域づくりについての研究を行っている。人と動物のより良い関係について研究するのが夢。

Webサイト: http://mariko-kanamori.moo.jp

 

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