ヨーロッパのレトリーバー世界にはいくつかの競技会のタイプが存在する。フィールド・トライアルと言われているのがその一つ。もちろんレトリーバーを産んだ国、イギリスが発祥。1890年代から行われている歴史あるドッグスポーツだ。なんと実際に猟を行い、レトリーバー達の回収能力を競わせる。鳥やウサギを撃つのだから一年中開催されるわけではなく、猟期オンリーの特別な試合。実猟だからどこに鳥が落ちるか、決まったシナリオなどない。すべて運と状況次第。決まったルーティーンをこなすオビディエンス競技会と大きく異なる点だ。フィールド・トライアルは現在ヨーロッパの多くの国で開催されている。
では猟の解禁時以外はトライアルができないのか、といえばそうではなく、狩猟をシュミレーションした「ワーキング・テスト」なるものも存在する。こちら、回収するものは鳥ではなくキャンバス布でできた「ダミー」。ダミーのみならず、コールドゲーム(すでに死んでいる鳥やウサギ)を使ってテストを行うこともある。これは、北欧諸国で非常に盛んだ。
さて、少し前の話にになるのだがこの6月、若犬アシカがいよいよ競技会デビューを果たした。彼女が出たのはワーキング・テストである「ジュニア・ドッグ・ダービー (Unghundsderbyt)」という競技会。2006年からスウェーデン・レトリーバー&スパニエル・クラブが開催している、若犬レトリーバーだけを集めて行うトライアルだ。対象となるのは9ヶ月から24ヶ月齢の犬。一年に一度しかない上に年齢が限定されている。その犬にとって一生に一度しか出れない特別なイベントでもある。それゆえ北欧のレトリーバー・ファンの間ではとても有名であり人気だ。
実を言うと私はそんな誉ある大会に出ようだなんて夢にも思わなかったのだが、なんというかある日
「ちょいと運試し!」
と競技会を申し込んでしまった。やや身に過ぎる行為かとは思ったが、如何せん、いつかどこかで競技会キャリアをスタートさせなければならない。私とアシカはまだきちんとしたレトリーバー・スポーツの大会に出たことがなかった。
アシカのゼッケン番号238番!気の遠くなりそうな数の参加者がいることに気がついた。
いい気なもので申し込んでからは
「アシカとジュニア・ドッグ・ダービーに出るんだ〜」
としばらく人に吹聴しまわったものだ。それを言うたびに自尊心もくすぐられちょっと得意な気分になった。が、実際に会場に来て私はへっぴり腰に。ゼッケン番号は238番!なんと今年は250組が参加表明。スウェーデンのみならずデンマークやノルウェーからも競技者が。ノーズワークも時に100組参加となるすごい大試合になることもあるのだが、ジュニア・ドッグ・ダービーはその上をゆくメガ競技会。この競争率の中でトップ10%を目指そうなど考えること自体すでにおこがましい。
「これは若いアシカと私のメモリアル・イベントということにしよう!」
ま、せめて半分の100位ぐらいには入りたいな、と…。
犬を送り出してからはハンドラーの私はもうマナ板の鯉。運はアシカと神に握られている…
結論から言うと、なんと私とアシカは10位に入ってしまったのだ。あともう一点獲得をしていたら、上位9組だけが選ばれるファイナル戦にも参加できていた。が、私とアシカにとっては、これでもう十分すぎ、大勝利である。競技会後の夕べ、私の携帯はお祝いの言葉で始終「チン!チン!」と着信音が鳴りっぱなし。あとで結果ランキング表をみたら、アシカの後ろには有名な犬舎の犬たちが50位内に多く名を連ねていた。まったくもって奇跡の試合だった。もちろん私とアシカはそれなりに努力をしてきた。しかし、それはトップに入る人なら皆切磋琢磨していることである。となると、やはりアシカという才能を持った犬に負うところはすごく大きい。
アシカと私は少しづつであるが、カモを十羽しとめてひと唐揚げにして食べる、という夢に近づきつつあるようだ。