様々な側面から親犬を選択する「スウェーデンに学ぶ完全ブリーディング・コントロール」藤田りか子さんセミナーレポート その2

文:尾形聡子

[photo by Rikako Fujita]

ドッグトレーナー養成スクール「PALYBOW Dog Trainers Academy」主催の、藤田りか子さんのセミナー「スウェーデンモデル~スウェーデンに学ぶ完全ブリーディング・コントロール」。犬をつくるとはどういうことなのでしょうか前回に引き続きスウェーデンでのブリーディングへの取り組みについてのお話を紹介します。

ケネルクラブが行う犬種別ヘルスプログラムの重要性

[photo by Satoko Ogata]

よほど大きな犬舎でない限り、スウェーデンではペット気質・ショー気質などと区別したブリーディングは行われていないそうです。にもかかわらず、スウェーデンの犬は粒が揃っているといいます。それは、徹底したブリーディング・コントロールがなされているためなのです。

「まずは国の動物愛護法があり、その下にケネルクラブの原則があります。ケネルクラブの原則の中には血統犬としてケネルクラブに登録するための原則があり、そのひとつに、ケネルクラブのヘルスプログラムがあります。」

ヘルスプログラムとは股関節、肘関節、パテラ、PRA など、ケネルクラブが制定する犬種ごとに必要とされる健康チェック項目です。またヘルスプログラムでは、病気についてだけではなく気質についての記載が必須とされている犬種もあります。第1、第2グループに属するワーキング系犬種(ジャーマン・シェパード、ボクサー、ジャイアント・シュナウザー、コリーなど)がそれに該当します。

「ヘルスプログラムに該当するチェック項目が全て記録されていれば、どのようにそれが遺伝しているのか、または、どのように改善されていっているかということを後々調べていくことができます。データが蓄積されていくことで、各犬種それぞれに見合ったブリーディング・コントロールをし、よりよい犬を作り出していけるからです。」

ヘルスプログラムの項目は、新たに検査項目として加えられるものもあれば、状態が良くなれば外されることもあり、各犬種の状態により変更されていくような仕組みとなっているそうです。

「たとえばグレート・デーンですと、股関節の状態が改善されたことから、股関節の記載は不要になりました。しかしそれはあくまでもケネルクラブに登録するために必要な項目ではなくなったというだけで、犬種クラブでは引き続き股関節の検査を必要としています。つまり、ケネルクラブと犬種クラブの両方で犬種が守られていると言えますね。一方で、新たな遺伝性疾患として拡張型心筋症の発症率が高まってきていることから、犬種クラブが拡張型心筋症をグレート・デーンのヘルスプログラムに加えるよう、ケネルクラブへ申請しました。犬種クラブからの申請を受けると、ケネルクラブでは、大学などの機関へ研究してもらうよう依頼します。その研究のために血液サンプルなどが必要となると、今度は大学の方がケネルクラブにその旨を伝え、ケネルクラブから犬種クラブを通じて飼い主へとサンプル提供が呼びかけられます。このような研究を進めるためには、病気にかかっている犬だけではなく健康な犬も含めた全てのグレート・デーンが対象とされ、それによってグレート・デーンという犬種内で、その病気がどのような状況にあるのかを調べることができるのです。」

このような制度を作るのに役立っているのはやはり、犬にも背番号制が取られていること、そのためにデータ管理がしっかりと行えることにあるといいます。

X 登録というブリーディングの試み

X 登録とは、スウェーデンに入ってきたばかりで実績がない犬種や、大きな健康問題を抱える犬種に他犬種の血を導入することで問題改善をするために誕生した、スウェーデン特有のブリーディングの試みだそうです。

「たとえば、健康問題を抱える犬種が健康面で改善が見られるようになるまでしばらく多犬種をかけ合わせていき、最終的には戻し交配を行って元の犬種へと近付けていきます。その期間は、多犬種の血が新しくはいったその犬種は X 登録されるのですが、本来の犬種としてほぼスタンダードに戻って安定してきたとジャッジが判断した段階で、本来のケネルクラブでの犬種登録に戻されるという仕組みです。」

実際に X 登録されるに至った犬種のひとつが、クランバー・スパニエルです

「スウェーデンで大きな問題になっていたのがクランバー・スパニエルの健康問題です。クランバー・スパニエルは遺伝子プールが非常に狭く、さまざまな遺伝病や股関節の疾患を抱えていました。そのような理由から、他犬種の血を導入したいとクランバー・スパニエルの犬種クラブがケネルクラブに申請し、それについてケネルクラブが協議を重ね、X登録として健康問題を改善すべく、ブリーディングを行うことにゴーサインをだしました。」

クランバー・スパニエルの健康問題については、今から遡ること20年前の1993年に行われた世界クランバー・スパニエル・カンファレンスにて、スウェーデンの遺伝学者がすでに懸念を示していたといいます。

「その学者は、このままだとクランバー・スパニエルは犬種として30年もつかもたないかであると警告していました。スウェーデンではクランバー・スパニエルの健康問題を改善するため、2001年にイングリッシュ・コッカー・スパニエルとかけ合わせるプログラムを開始。戻し交配によって、イングリッシュ・コッカー・スパニエルの血の入ったクランバー・スパニエルは、審査員によって”スタンダードの基準に達している”と判断を下され、再び純血種として登録されるようになりました。」

メンタリティテスト

[photo by Rikako Fujita]
スウェーデンで行われている気質テスト、BPHのシーンから。

スウェーデンでは、見かけを審査するドッグショーと同様に、作業特性や気質についても重きをおいたブリーディングを行っていることは、これまでのお話の中でもお伝えしました。気質を大切にするために行われていることのひとつが、メンタリティテストです。

「性格も犬種のうちということです。その犬種らしい性格が、ブリーディングを行う上で重要とされています。そこでメンタリティテストを行い、個々の犬が持つ気質をプロファイリングしています。基本的にこれは、ワーキングドッグのためのテストになります。」

メンタリティテストでは、犬のリアクションを見るために10のテストを行います。各テストにおいての犬がみせた反応を33の項目にわけて点数をつけ、それをもとに人とのコンタクトの取り方、好奇心の強さ、狩猟欲、恐怖心、遊びの強度などについて、クモの巣グラフに表わされます。

グラフでは、その犬の結果とその犬種の平均値とを比較したり、犬全体の平均値と比較することができるようになっています。もちろん、犬種間で平均値を比較することもできるそうです。さらに最近では、犬種としての作業特性を測る機能性プロファイルというテストが行われるようになったそうです。

「要するに、皆が丁寧にブリーディングをしていくのが大切だということです。犬種というのは決して贅沢品ではありません。それぞれ各人が努力して、協力してひとつの犬種を作っていくということなんです。このような地道な努力を続けていけば、パピーミルのように適当に繁殖するという風潮がなくなっていくと思います。そんな時代がいつか、日本にも訪れればいいなと心から願っています。」

(本記事はdog actuallyにて2013年10月22日に初出したものを一部修正して公開しています)

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