無言で微妙、犬言葉

文と写真と動画:藤田りか子

犬が出すミクロ表情を読み解く

我が家にいるラッコ(4歳)とアシカ(6ヶ月)のやり取りを見ていると、彼らの会話は大げさなジェスチャーで成り立つ時もあるのだが、特にお互いの利害にかかわるような場合は、微妙なボディランゲージの連続であるのが分かる。私が冷蔵庫から彼らが好きな食べ物を取り出した時など2頭が周りでかち合うので、それが顕著となる。ただし犬の経験をある程度積まないと、彼らのやり取りは微妙なだけに人が読み取るのはちょっと難しい。そしてこれが見えないがために、犬を怒らせてしまう、などという問題はよく起きている(食べている側を通ったらいきなり犬に唸られた、など)。その際、私たちの目からすると突然怒ったようにも感じられるのだが、実際はミクロ表情とも言うべきボディランゲージを出して、犬は何度も自分の意思を相手に伝えていたりする。

そこで、ラッコとアシカのやり取りに見られるその微妙なボディランゲージを動画に撮って確認することにした。まず、ビニール袋に詰めた冷凍肉を取り出しそれを床に置いた。ラッコは「なんだろう」と確認をするために丹念ににおいを嗅ぐだろう。こうして時間を稼ぐことで、彼がアシカに対して出すボディランゲージの頻度を高めようとするのが魂胆だ。アシカはカメラを構えている私の周りにいるのであまり画面には出てこないのだが、ラッコが見せる表情は全てアシカに向けられているもの、と解釈していい。というわけで、こちらの動画をどうぞ!

ここでラッコが見せているのは、目で睨む、あるいは、一瞬固まる、という動作だ。人に慣れない犬は、知らない人に撫でられていたりすると、最初は我慢しているものの、一瞬固まり、手をガブ!とやることがある。犬が「固まった瞬間」は逃してはいけない。だが、さすが犬同士!アシカはラッコの意図を十分に汲んでおり、睨まれるごとに、距離を開けたり耳を後ろに引くなど和平のシグナルを出していた。2頭とも同居人であり気心が知れている。だから、アシカはラッコの警告を時々無視して、ビニール袋になんとか近づこうとしている(私が周りにいたので、より強気になったのもあるだろう)。そして最後に「こら!」と戒めに行ったラッコも、そんなに本気で怒ったわけではないのが分かる。

専門家と素人では犬を見る目が違っていた!

さて、このように犬のボディランゲージというのは微妙。専門家に言われて「あ、そっか、そんなことを言っていたんだ!」と初めて気がつくことなどしょっちゅうだ。私も神業的に犬を読むトレーナーに今まで何人か出会ってそれを目の当たりにしてきた。そこで自分なりに出した仮説とは

「素人と専門家の間では《見る目》というか脳の構造が絶対に違う!」

…と、5年前のことだが、フィンランドのAalto大学神経学生医学部のミアマリア・クヤラさんらは、fMRIを使って犬の専門家と素人の間に「犬を見る目の違い」が存在することを見事に証明した。やはり「専門家の目」というのは存在したのであった。その違いとは、専門家はまず犬の社会的行動を見逃さない、ということ。そして犬の体全体を見て判断するそうである。一方で、素人は人の社会的行動はきちんと観察していても、犬の社会的行動に関しては目が素通りする傾向があるということだ。そして目のゆくところはどうしても犬の顔の表情などで、全体ではなく部分に集中するそうである。なるほど!

動画にみるラッコの警告シグナルも、よくネットに出ている「犬のボディランゲージとは」等のリスト通りに部分部分を見ていると、絶対に見逃してしまうものである。行動の流れ、体全体が見せる「雰囲気」(ラッコの例では硬直した体)が犬の意図を察するキーともなるだろう。

ちなみに、専門家と素人の視線をパターンの違いを示したミアマリア・クヤラさんの研究論文からの画像があるので、こちらを参考にされたい。

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