犬は言葉で褒められるよりも撫でられるのがお好き

文:尾形聡子

[photo from The Blaze]

犬をトレーニングするときの報酬として “褒める”ことがいかに大切であるかということについて、世の中に広く受け入れられるようになってきました。しかし、トレーニングとは関係のないところで、単純に犬は、人とコミュニケーションをとる際にどのような方法で人からアプローチされるのを好むのでしょうか。アメリカのフロリダ大学とアリゾナ州立大学の研究者らが実験を行い、その結果を『Behavioural Processes』に発表しました。

言葉で褒められる vs 撫でられる

研究では2通りの実験が行われました。最初は、犬が撫でられることと言葉で褒められることのどちらが好きかをみるための実験です。部屋の中に2つの椅子を放して置き、2人の実験者がそれぞれ座ります。片方の人は楽しげな声で犬を褒める役割を、もう一方の人は何も言葉を出さずに犬を撫でてかわいがる役割です。犬は部屋に連れていかれ、各人の前でそれぞれとコミュニケーションをとります。

その後、犬は部屋の隅に連れていかれ、リードから解放されます。犬は居心地の良い人の側に長くいるということがこれまでの実験により証明されているため、研究者らは、いずれの人の近くに居る時間が長いかを計測しました。つまり、近くに居る時間が長い人が犬に対して行ったことの方が、犬にとって嬉しい経験だったということになると考えたからです。そして、犬が近くに寄ってきた際には、各人に与えられた役割、撫でるか言葉で褒めるかを続けるという状況が作られました。

家庭犬とシェルターの犬、実験者として飼い主と見知らぬ人とが参加し、さまざまな組み合わせで実験を行ったところ、全ての実験グループにおいて、飼い主であろうと見知らぬ人であろうと、犬たちは言葉で褒められるよりも撫でられる方を好むことが示されました。

ふたつ目の実験では、椅子はひとつだけ使用されました。シェルターの犬には見知らぬ人が、家庭犬には飼い主が実験者となり、①全く何も反応せずに無視して座っているだけ、②言葉で褒める、③しゃべらずに撫でる、という3つの状況に対して犬がどう反応するかが観察されました。

その結果、撫でる状況と言葉で褒める状況では、犬は明らかに撫でる状況のときに人の近くで過ごすことが分かりました。さらに、犬は撫でられることに飽きるような様子は見せなかったそうです。また、言葉だけで褒める状況は、無視して座っているのとほとんど変わりはみられませんでした。ただし、飼い主と犬との関係性が非常に強い場合にだけ、犬は褒め言葉に反応することも示されたそうです。

これらの結果から研究者らは、撫でることは犬と人という種の異なる生物の社会的交流を維持するのに重要であると考えられ、言葉で褒める場合は別に特別な条件が付いていなければならないのかもしれないことを示すものだとしています。

撫でられる vs 食べ物をもらえる

さらに同じ研究者らは、もうひとつの研究を『Journal of the Experimental Analysis of Behavior』に発表しています。そこでは、犬は撫でられることよりも食べ物を好むという結果が出されています。

これらふたつの研究により、犬が好きな報酬は、①食べ物、②撫でられること、③言葉で褒めること、の順であることが示されたわけですが、それぞれの報酬をキッチリと単独で行うのは、普段の生活ではむしろ少ないこととも思います。食べ物を与えるときも、言葉で褒めるときも、折に触れて愛犬を撫でたりさわったりする機会を増やそうとする意識が、愛犬との絆をさらに深めていくことにも繋がっていくのではないかと感じるものです。

(本記事はdog actuallyにて2014年9月18日に初出したものを一部修正して公開しています)

【参考サイト】
The Blaze
Psychology Today