日本テリア、世界で知られる

文:藤田りか子


[Photo by Rikako Fujita]

スウェーデン唯一の日本テリアがいると知ったのは、もう10年以上も前なのだが、2013年のワールドドッグショーのハンガリー開催を訪れた時だ。何度もワールドドッグショーに通っているのだが、日本テリアに会ったのは、イタリアで2000年に開催されたワールドドッグショー以来。

ショーには、ポーランドから2頭、そしてスウェーデン人のマリア・ノルディンさんから1頭の計3頭のエントリー。そして聞けば、マリアさんはスウェーデンに初めて日本テリアを導入した人でもあった。かつスタッフォードシャー・ブル・テリアのブリーダーでもある。ブル系と日本テリア!なんというコンビネーション。

日本テリアは、日本の犬種でありながら、実は知る人ぞ知る犬でもある。2024年のジャパンケネルクラブ年間登録数は約59頭。犬舎もそれほど多くない。何故、この犬種、日本でそんなに無名なのだろう?

マリアさんは日本テリアに対して非常にポジティブだ。

「よく、どういう犬って聞かれるんですけど、『すごくいい子!』ってしか答えようがない。で、どういう風にいい子なの、ていわれて、初めて考えたのですがね…」

考えてみてもなかなかいい言葉が浮かばない。

「…子供がさわってよし、一緒に寝るのもよし、遊ぶのもよし….、かな…?」

日本テリアを飼い、より疑問に思い始めたことがあるそうだ。

「どうして皆、日本テリアよりも難しいテリアを飼いたがり、そして多くを問題犬にして持て余しているのかしら?」

たとえば、ジャック・ラッセル・テリアの方が断然人気だ。しかし決して、誰もが飼える犬種ではない。

「日本テリアの方が落ち着いて飼いやすい。何しろ、あまり狩猟欲もないから、草原に放しても、他のテリアみたいに、ウサギの臭いを追って向こうに走っていくこともないし。ひたすら人間にトコトコとついてきます」

マリアさんは、ドッグショーでスタッフォードシャー・ブル・テリアを出陳するので、次の犬種も是非テリアにしたかった。そうすれば、同じ日に両方の犬種をエントリーすることができる。しかし、飼いやすいよう、狩猟欲の強いテリアをなんとも避けたかった。そこで日本テリアに決めた、というのだ。

日本テリアはヨーキーと共にテリアの中でも「女形」に入るだろう。これは私の最初の印象だ。可愛らしく、とてもフェミニンで柔らかい表情をしている。だから、マリアさんが、6頭の筋肉モリモリ元気なスタッフォードシャー・ブル・テリアと飼っていると聞いて、どんな生活をしているのだろうと、驚いた。


マリア・ノルディンさんのスタッフォードシャー・ブル・テリア軍団にまじって、一匹、和風のテリア!スウェーデンの唯一の日本テリア、リサ(右から3番目)。冬は寒いので皆コートを身につける。しかしいつもではない。[Photo by Maria Nordin]

「日本テリアは確かに奥ゆかしいですが、うちのスタッフォードシャー・ブル・テリアと住んでいるうちに、だんだん、自分を主張する犬になってきました。それだけではなく、スタッフォードシャー・ブル・テリアと取っ組み合いや追いかけっこをして、かなりドタバタとアクティブに遊びます。それでも一度も怪我をしたことがないですよ。日本テリアは、決して過保護にして育てる必要はない犬です。飼い主が与える環境によって、犬らしく、生き生きとした姿をみせてくれます」

そして、野性的な気質をたくさん持っている、とのことだ。

「テーブルの食べ物をくすねるのは、たいていリサ(マリアさんの日本テリアの名前)ですね。おまけに、食べ物を他の犬から取られないよう、ガードする気持ちもすごく強い。野性味、強いですよ!笑」

初めて会う人には距離を置く。しかし、一度会うと絶対に忘れないそうだ。

「日本テリアを手に入れるのは、しかし、非常に長い道のりでした。日本のケネルクラブに連絡して、ブリーダーの連絡先を教えてください、と聞いても、『それは教えられません』っていうんですね。スウェーデンなら、ケネルクラブがブリーダーの住所と名前、そして犬種クラブの連絡先をすぐに教えてくれるのに!」

結局めぐりめぐって、チェコに日本テリアをブリーディングしている人をつきとめた。

「しかし、今後、この犬種を増やして行けるか、といわれると自信がありません。というのも、何しろヨーロッパに個体がいないんです。いても、近親交配度が高くなる可能性があるから、やっぱり日本から新しい血を入れる必要がある。その日本ですら、個体が少ないのですからね」

日本テリア、ようやく世界で知られるようになりつつあるのだが、将来はどうなのだろう?ただ増やせばいいというものではない。健康な犬種人口を維持しなければ、犬種はいずれにせよ絶えてしまう….それには遺伝子プールがどうも小さいように思える。…と…. やはり消え行く犬種になってしまうのだろうか。

〈後日談〉

現在、マリアさんは日本テリアとは暮らしてはいない。よい個体を見つけるのがとても難しいとのことだ。