文と写真:アルシャー京子
栄養バランスを考えて作られたドッグフード、「総合栄養食」のはずなんだけど。..
うちの犬はドッグフードを好まない。
仔犬のときには食べていたのに、ドッグフードよりも美味いものがこの世の中にあることを学習してしまったというよりは、成長期に突然拒否を始めたのである。
今思えば、この現象は思春期にありがちな飼い主との力比べの一環だったかもしれない。理由はなんであれ、以来うちの犬はドライフードを食い物と思わなくなったようである。
もともとガッつくタイプの性質ではないこともあり、どんなに腹が減っていても食べるフードの量はせいぜい空腹感がおさまる程度。武士は食わねど高楊枝とはこのことか、お陰でいつしか体重は減り、私は食餌構成の見直しを余儀なくされた。
ドライフードは飼い主にとって便利この上ない。
栄養的にも偏りが少なく、とりあえずドライフードを食べていれば昔の残飯を食べていた時代のようにビタミン欠乏に陥ることはない。
しかし、それはあくまでも犬が食べればの話である。
しかたないので私も覚悟を決め、犬の栄養学と食品栄養学に基づいて試行錯誤を重ねた。その結果、私が行き着いたのは朝生肉・夜手作り加熱食というもの。
これにいつも試供品でもらうドライフードをほんの気休めほどパラパラと混ぜるのだが、これがまた器用に残されるのである(だったらよせばいいのに)。
かれこれもう6年以上続けている自分を褒めてやりたいくらい。でも、手作り食は慣れてしまえば人が考えるほど苦ではない。
なにしろ犬が元気で暮らしているのが私にとって最大の報酬である。
さて、前置きが長くなったが、今日も今日とて朝食用にと個別パックにしてある肉を取り出すべく冷凍庫をのぞいてみると...あらやだ、最後の一袋。
肉、買いに行かなきゃ。
幸いにもこの国ドイツは肉中心の食文化である。肉の値段は日本に比べてべらぼうに安い。
近頃ではペットショップでも犬用にと冷凍生肉を売っているが、それよりも近所の肉屋のほうが値段は安く新鮮である。
しかも栄養学的に欠かすことのできない内臓系の肉を多く扱っているうえ、すべて人間が普通に食べる肉と同じ出所であるのが、私にとって一番安心できるところなのだ。
肉屋の店員に「犬にやりたいんですけど、切り落とし肉ありますか?」と聞くと、「犬用にだったらそこに真空パックにしてありますよ」とのこと。
「犬に」と言ったら日本ならきっと気を悪くされるだろう。
しかしドイツでは店で食肉解体をしたときに出てくる切り落としやくず肉を、あらかじめ犬用にとわざわざ取り分けて提供してくれているのである。
それだけでなく内臓系も使って店ごとに違ったレシピで作った犬用のソーセージもある。
(本記事はdog actuallyにて2008年9月2日に初出したものをそのまま公開しています)