ポインティングドッグを使うヨーロッパの鷹匠 – クロアチアの猟場から

文と写真:藤田りか子

日本の昭和の頃の接待ゴルフみたいなものだったのだろう。貴族が集い、客人をもてなしたり、社交の場として優雅に鷹狩へ出かける。中世前期から、近代前の革命が始まる前まで、ヨーロッパの上流階級では鷹狩が全盛を迎えていた。

鷹狩の起源はアジアとも中近東とも言われている。ヨーロッパでは、地域や時代ごとにさまざまな鷹狩スタイルが混ざり合い、やがて独自の形へと発展していった。そこから、鷹狩に特化して活躍する犬まで登場したのである。それが、FCIグループで言うところのポインティングドッグ系の犬やスパニエル達である。これは、中近東における鷹狩にサイトハウンドを使うのとは、また別系統の猟法であり、面白い点である。

ヨーロッパの鷹狩の伝統は一時期衰退したものの、1900年代初頭から再び愛好家を集め、決して大きな復興というわけではないが、確実に受け継がれてきた。そしてそこに、ガンドッグ犬種たちも活発に参加をしているのだ。フランスやドイツのガンドッグ、たとえばブリタニー・スパニエル、ミュンスターレンダー 、ジャーマンポインター、プードルポインター、ハンガリアン・ビズラ、などHPR系のガンドッグ(Hunt, Point, Retrieve 多機能ガンドッグ。英国のセターやポインターとは対照をなす)がその例だ。


鷹狩の起源はアジアとも中近東とも言われている。Photo by Spenser Sembrat]

もう何年も前のことになるが、クロアチアのドッグショーに訪れた折にたまたま鷹狩を犬と共に行う狩猟家に出会った。ブラニミール・ラインドルさん。農業省で食肉の検査官を行う獣医師でもある。愛犬の名前はガンドルフ。ショー用の美しさと、猟用の機能面を備えたワイマラナー。スウェーデンからわざわざ輸入したそうだ。

「鷹狩のために、と犬を探していてね。両目的用のガンドッグを作る国として定評があるスウェーデンにいい犬を見つけたんだ」

クロアチアは特に鷹狩ハンターの人口が多い国ではない。それどころかブラニミールさんを入れて、20人にも満たないぐらい。しかし、バルカン半島を通じてギリシャ文化の影響を受けてきた東欧は、ヨーロッパの鷹狩史の中で最も古い伝統を持つ地域でもある。クロアチアから少し南へ行ったマケドニア共和国では、通貨に鷹狩のモチーフが採用されているほどだし、鷹や鷹匠はさまざまなアートにも登場する。

そして東欧圏のチェコ共和国は、現在のヨーロッパで最も鷹狩が盛んな国として知られている。クロアチアもかつては鷹狩が盛んだった。しかし、鷹狩が「ブルジョアのスポーツ」とみなされたため、共産主義時代に文化として完全に失われてしまった。だがもともと西寄りのチェコでは伝統がうまく生き残った。それで、ブラニミールさんの友人などは、鷹狩用の猟犬としてチェコの原産種であるチェスキー・フォウセックというガンドッグを使っているほどだ。

鷹狩におけるガンドッグの役割は、まさに銃を使う際の猟とおなじ。銃が鷹に変わっただけである。つまり、犬がそのよい嗅覚で獲物を見つける。そして見つけたら、ポイントをする。そしてハンターのコマンドを待って、鳥を羽ばたかせる。通常なら、そこで銃を引くのだが、代わりにハヤブサを放す。そして鳥をしとめてもらうのだ。

ちなみに、クロアチアで最もよく使われている猛禽は、他のヨーロッパ諸国と同じく、ハヤブサ(Peregrine Falcon)、ハイタカ(Goshawk)、そしてオオタカ(Golden Eagle)だ。ハヤブサは空中で獲物を捕えることができるため、ウズラやキジ猟に使われる。そのため、ハヤブサを使う猟では、犬は主にポインティング役として活躍する。一方、オオタカは獣猟向けで、ウサギのみならず、ノロジカ、さらには山岳の羊ムフロンすら捕まえることがある。この場合は犬は使わない。そしてハイタカは、鳥猟と獣猟の両方に使える万能タイプで、獲物は主にウサギとキツネになる。

ワイマラナーのガンダルフは、ブラニミルさんのハイタカと一緒に働く。首都ザグレブから北へ車で一時間ほどのところ、イノシシ人口が非常に密だという人気の猟場でウズラやキジのポイントを見せてくれた。

「ワイマラナーのいいところは、身体的に精神的にすごくフィットしているから、横着しようとか、効率よく仕事しようとか、そういう怠け心がないんだね。だから獲物が少なくても、とにかくそのにおいをとろうと、フィールドを駆け回る。疲れ知らずだよ」

それでも鷹猟で成功するのは8回に1回程度。

「鷹猟なんて残酷、という人がいるけれど、これぐらい原点に近いフェアなプレーはないさ。何しろ、獲物とこちらの条件はいっしょなんだ。猛禽に体力がなければ、その日の猟はだめ。でも獲物にもし体力があれば、うまく逃げおおせる。そして探索のために犬のサーチ能力、嗅覚能力、精神度の強さがさらにゲームの勝敗を左右する」

ブラニミールさんは長年のハンターだが、鷹狩の面白さを知ったのは、そんな前ではない。

「それからというものの、もう銃を使うハンティングにまったく興味がなくなったんだ。犬を訓練して、かつ猛禽を訓練して…、そう、鷹狩ぐらい、いろんな要素が入り込み、その醍醐味が味わえる猟は、この世にないよ」