文:藤田りか子
好評連載シリーズ、「この犬種似てる、でも違う!」シリーズその2。その1はこちらから(↓)!

アメリカン・コッカーとイングリッシュ・コッカー
驚くなかれ、ヨーロッパでは「コッカー」というだけでは、自動的にアメリカン・コッカー・スパニエルとは理解されない。人々はイングリッシュ・コッカー・スパニエルとして認識する。つまりヨーロッパでは、イングリッシュの方がより一般的。日本とアメリカではその逆。コッカーといえば、有無を言わさずそれはアメリカン・コッカーを指す。犬種人気に見るお国柄?もっとも日本はアメリカの犬種トレンドを受け易いから、当然の結果ともいえる。
ただし、いずれの犬種も、気がよく、明るく、懐っこい。どちらの地域においても、アメリカンとイングリッシュの違いはあれど人気はナンバーワン。
コッカーは、もともと猟犬として活躍していた犬種である。ヨーロッパには現在も、フィールド系(狩猟用)と愛玩系の2系統が存在する。両者は見た目もまったく異なっており、なかでもフィールド系こそが、元祖としてのオリジナルの姿を今にとどめている。
そのような狩猟犬として活躍していたコッカーでアメリカに渡ったものは、当地でアメリカナイズされ、ちょっと派手目になって「アメリカン・コッカー・スパニエル」という新種になった。こちらはもともと愛玩犬を元に作られているのだから、フィールド系などというラインは存在しない。イギリスのコッカーとの差は、なんといってもマズルの形だ。アメリカンコッカーのマズルはより<もっちゃり>として、あどけなさが強調された顔立ちとなっている。
イングリッシュ・コッカー・スパニエル。アメリカンに比べると「爽やかに」かわいい感じ。[Photo by Katrina_S]
おなじみ、アメリカン・コッカー・スパニエル。顔のあどけなさがイングリッシュ・コッカー・スパニエルよりさらに強調されている。[Photo by SheltieBoy]
フィールド系のコッカー・スパニエル。いわゆるイングリッシュ・コッカー・スパニエルとは全く異なる、スポーティな見かけ。[Photo by TheOtherKev]
カーディガンとペンブローク
「コーギー」とは通称だ。「ウェルッシュ・コーギー・ペンブローク」とか「ウェルッシュ・コーギー・カーディガン」とフルネームでこの犬種が語られることはあまりない。それだけにいざ正式名称で言われても、「尾のない方が、えっと、どっちだっけ…」と混乱することもしばしばなのだ。これはいわば、ノーウィッチ・テリアとノーフォーク・テリアでどちらが立ち耳かあるいは垂れ耳か、何度説明を受けてもなかなか覚えられない、そんな現象に似ている。
というわけで、本文に入る前にまずコーギーの犬種を区別する簡単な暗記法を伝授しよう。ペンブロークはブロークはbreoke(=断つ)という言葉が名前にあるので、これで「尻尾がbroke、断尾して短くなった」と覚える。つまり尾が短い方がコーギー・ペンブローク。それに相対するのが尾の長いカーディガン。但しこれはあくまでも暗記をするためのこじつけにすぎないので、名前の由来と勘違いしないように!
尾の長さだけが2種の違いではない。2種は一見よく似ていながら、その実細部は微妙に異なる。どちらもウェールズ原産だが、コーギー・ペンブロークはウェールズのペンブロークシャーという海岸地帯から、そしてカーディガンはそのすぐ北のカーディガンシャーからやってきた。ペンブロークは北欧からやってきたバイキングの影響が強く、彼らとと共に連れられてきた北欧系のスピッツと元々ウェールズにいた牧羊犬が交わり、ペンブロークが出来上がった(というのが通説であるが、確かではない)。
一方、カーディガンシャーは海岸線が険しく、容易に外国の船が入れないようになっている。そこに元来いた犬はあまり外国の影響を受けなかった。ところで、ウェールズの地犬とくれば、当然コリー系の牧羊犬。そこでコーギー・カーディガンにはコリー影響が強いのだ。ペンブロークのスタンダードカラーはフォーン、単色レッド、セーブル、フォーン、ブラック&タンであり、これ以外は認められずカラー枠が厳格に規定されている。ところがカーディガンのコート・カラーには制限はない。そのため、様々なカラーやパターンを見ることができる。その中にはブリンドルやブルー・マールもいる。ブルー・マールは牧羊犬に特徴なコート・パターン。即ち、カーディガンにおけるブルー・マール因子の存在はコリーからの影響を証明しているように思える。
それからペンブロークの持つ柴犬似のスピッツ特有の目つきとカーディガンのそれを比べてみよう。カーディガンの愛好家はこれをよく「ジャーマン・シェパード的マスク」と呼ぶ。
耳もペンブロークは柴のようなちょこんとした立ち耳を持つ一方で、カーディガンはシェパードのように顔の大きさの割にはでっかい立ち耳。ペンブロークとカーディガンの頭部を並べて見れば、耳のサイズの差は一目瞭然である。
ウェルッシュ・コーギー・ペンブローク。 [Photo by Rikako Fujita]
ウェルッシュ・コーギー・カーディガン。ブルー・マール(写真)やブリンドルが存在するのも、カーディガンの特徴。ペンブロークにはこれらコートカラーは存在しない。[Photo by Rikako Fujita]