文:尾形聡子
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止まっている物体に犬の意識を向けさせるとき、皆さんはどのようにしていますか?それが犬にとって興味がないものだとしたら、意外と手こずってしまうことがあるかもしれません。
犬が異なる生物種である人とコミュニケーションをはかれるのは、社会的な認知機能の高さを持つがゆえであることが科学的に実証されてきています。その口火を切ったのが「指差し実験」。人が指を差す行動を犬はシグナルとして受け取り、その方向へ向かうことができるというものです。犬は指差しだけでなく、人の出すさまざまなジェスチャーをシグナルとして受け止め、理解し、それに従うことができます。このような犬の認知能力については、人の赤ちゃんがどのようにして認知能力を発達させていくかと比較するような形で一般的に研究が行われています。たとえば人の視線の先を追う視線追従は、犬には6ヶ月〜2歳くらいの子どもと同程度の能力があると報告している研究があります。
指差しや視線追従という行動は、参照的コミュニケーション(Referential communication)のひとつで、人の社会的認知機能の初期の発達段階で現れる、他者との情報交換や協力を行うために不可欠なスキルです。何か対象物を指し示したり視線を向けたりすることで相手にその対象に注意を向けさせるのが参照的コミュニケーションの基本で、発信者が相手に何かを伝えようとするための意図的な行動です。
犬が人の指差しや視線に追従できるのは、研究で証明されずとも飼い主であれば生活の中で経験してきていることでしょう。しかし、犬がどの程度それを理解しているのか、参照しているのかについては議論の余地があるとされています。ある研究では、