コーギーの先祖犬?- スウィディッシュ・ヴァルフンド

文:藤田りか子


コーギー似のスウェーデン原産犬種、スウェディッシュ・ヴァルフンド。[Photo by

スピッツ顔に短足胴長、あったりなかったりする尻尾。見て欲しい、この類似!ひょっとしてコーギーと関連がある犬?スウィディッシュ・ヴァルフンド(以下ヴァルフンド)は、世にも珍しい北欧出身のローカル犬。スウェーデンの中南部で昔から小さな牛追い犬として酪農家の間で飼われていた。コーギーとよく似ている点がとても興味深いスピッツ犬種だ。FCIの分類でもやはりグループ5(スピッツとプリミティブ系)に属する。

立ち耳のスピッツ顔という類似点のみならず、個体によっては尾が短い(ボブテイル)犬が生まれる。歴史的使役分野に関しては「似ている」を通り越して、全く同じ。ヴァルフンドはもしやコーギーの生みの親ではないかと、多くのヴァルフンド愛好家は密かに且つ大胆に信じている。世界的人気犬コーギーのルーツを作ったのが北欧の素朴な田舎犬とは!


ウェルッシュ・コーギー・ペンブローク。[Photo by ]


今でこそ洗練されたルックスを持つコーギー・ペンブローク。当時はヴァルフンドとより近い見かけをしていた。写真は1900年の初め頃のもの(Image from Our Dogs 1934)

ヴァルフンドとコーギーは本当に繋がっているのか?何しろコーギーの故郷イギリスとスウェーデンは地続きではない。二国間の犬がいきなり親戚同士だなんて理解しがたい。そこで登場するのが「ヴァイキング」だ。北欧の海賊ともいわれてきたが、彼らは800年代の交易者であると同時に船を駆使し新天地に農耕地を求めた北欧の農牧畜民だ。コーギー・ペンブロークの故郷、ウェールズのペンブロークシャーにはヴァイキングがかつて植民していた証拠として遺跡があるし、地名にも北欧語が残っていたりする。ペンブロークシャー沖にはスコークホルム(Skokholm)と呼ばれる島があるが、これはまさに北欧系の言葉から由来した地名だ。

北欧における脚の短いスピッツ種の牧畜犬の存在はすでにヴァイキング時代に知られている。農牧畜民の彼らだからこそ、故郷からその牧畜犬を伴っていた可能性は高い。ペンブロークシャーにやってきた彼らの犬が新天地にてやはり牛追い犬として活躍し、後にコーギーとなったのかもしれない。逆にヴァイキングがイギリスの地犬を北欧に持ち帰り、今日のヴァルフンドがあるのでは、とも推測できるがこう反論もできる。

「イギリス原産でスピッツ似の犬がコーギーの他にいる?」

国犬種の多さでは世界一を誇るイギリスであるが、スピッツ顔の犬がコーギーを除いて他にいないのはそういえば不思議だ。スピッツ犬がイギリスにネイティブとして存在していたら、他に犬種がいてもよさそうだ。一方で北欧にはヴァルフンドを始めたくさんのローカルのスピッツ犬種がいる。ヴァルフンドと並ぶ北欧の牧羊スピッツ犬、ブ・フンドもよく見れば目元などはコーギー似でもある。


ブ・フンドの若犬。ノルウェーのスピッツ系牧羊犬種。[Photo by

北欧からウェールズに渡ったのか、あるいはその反対なのか、短足スピッツ起源については論争があるけれど、それはさておいて、最後にコーギー似の素朴で素敵なこのヴァルフンドのプロフィールを紹介しよう。

ヴァルフンドの名前の「ヴァル」というのは「(牧畜を)駆る」という意味。但しこの犬種名は旧北欧名で、英語圏ではこの名が公式名となっている。原産国ではヴェストヨータ・スペッツという(ヴェストヨータ地方のスピッツと言う意味)。体高はコーギーより同じかやや大きめ。ペンブロークの尾と同様に生まれつき尾のない個体もいれば、あっても短かったり。性格は小さな体に似つかわず、機敏でエネルギッシュ。コーギーとよく似て学習能力も高く、北欧のドッグスポーツ会でもよくお目見えする。牛の駆り方もコーギーと全く同じで、踵をかみながら追っていく。番犬本能の強い子も多く、この点でコーギーよりやや原始くささが残っているかもしれない。が、根本的には人といれば幸せという、明るいファミリードッグだ。


ヴァルフンドの親子。ボブテイル(短い尾)を持つ犬もいる、という点でコーギーとよく似ているのだ。[Photo by Christer Lässman]