スウェーデンの夏至祭、犬たちは自由に遊ぶ

文と写真:藤田りか子

夏至祭といえばスウェーデン。一年のうち一番日が長い日。夏至祭が行われるのはただし夏至の日に一番近い土曜日。その前日の金曜日は夏至祭イブとなり、もちろん休日。このイブの夜こそ盛大に祝うのである。

スウェーデンではとても大事なお祭りだが、だからといって別に街中が賑わうというわけではない。そもそも私が住んでいる界隈ではレストランやカフェがこの日は軒並みおやすみ。夏至祭は家族、友人同士で集い家庭や近所でローカルに祝うもの。商売気がないスウェーデン人だが、そういうガツガツしていないところはなかなかいい。

いつもストイックに自制を効かせているスウェーデン人だがこの日となると、浴びるぐらいシュナップス(ハーブ香料の入ったウォッカ)を飲む。だから愛犬連れの私としてはうっかり皆につられて飲まないように、と夏至祭の日こそ自制をかけておく。なにしろ、酔っ払いながら犬と共にするのはよくない。監視不足でうちの犬が他人に迷惑をかけることだってあるかもしれない。やはり祭の日だからこそ皆が楽しく過ごせるよう、アクシデントはできるだけ避けたい。特にミミチャンのようなビビりを共にしていると…!彼女が何に対して急に怖がり始めるのか、その兆候を私が酔っ払ったがために見過ごしたりすることがあったら大変だ。

テントの中で皆と夏至祭のお食事。カッレに懐いている犬はデニッシュ・スウィディッシュ・ファーム・ドッグのシッゲ君。こうしてゲストの周りにまとわりついて、誰かが何かをくれるのを期待しているのに違いない。

今年の夏至祭は友人宅のガーデンパーティに参加して過ごした。料理は各自でもちより30人が集まった。庭にテントが建てられており、そこで食事を楽しんだ。最初こそみなかしこまって席についていたものの、しばらくして酔いがまわり、席を離れて親しい人同士集まってしゃべったり、かわい子ちゃんを口説こうとしたり、あるいはオジさんたちは机についてモソモソと何かを必死に語り合ったりしている。子供などは親無視ではしゃいでいる状態だ。

そして誰かに連れらていた小型犬たちもフリーでその辺を走り回っていた。そもそも小型犬の飼い主の監視がだいぶ甘くなっていた。うちの犬は3頭ともでかいので、これは何かあったら危ないかも、とさっさと車のケージに入れて待機させることに。ちょっと残念ではあったが、やはりこれも飼い主としての「責任」。たとえ酔っていても、こんな風に気を回せるのは大事!

走り回っている小型犬の中に、ジャックラッセル・テリア風の犬がいた。もしやと思い飼い主さんに犬種名を伺ってみると案の定デニッシュ・スウィディッシュ・ファームドッグであった。名前はシッゲ君。日本でこの犬種名を知っている人がいれば、そうとう犬種オタクだろう。スウェーデンの南部、そしてそのすぐ隣に位置しているデンマークを出身としているローカルな犬種。ローカルとはいえ、4年前には国際畜犬連盟(FCI)で犬種として公認されている。そしてスウェーデンでは最近とても人気な犬でもある(この記事を参照に)。10年前に比べて登録数はほぼ倍になっている。昨年では人気犬種ランキング7番目であった。

なぜこの犬種がこれほどまでにスウェーデンで人気になったのか、友人宅の庭で出会ったシッゲ君を見てよ〜くわかった。人に対して過度に馴れ馴れしくするわけでもないが、決して怖がるという風でもない。話しかけると一応止まって撫でさせてくれる。リードにつないでもいなくとも、どこかに行って姿を消したりもしない。ずっと人の周りでウロウロしているのだ。さすが「ファームドッグ」と名がついているだけある。もともとは農場(ファーム)で飼われていた「なんでも屋」の犬。その辺に放しておけば、納屋でネズミ退治もやってくれるし番犬にもなってくれる。ときには狩猟の手伝いにも参加した。

夜の8時でも太陽はサンサンと照っている。夜中の12時になっても真っ暗にならず、まさに白夜となる。皆が酔っ払い始めると、連れられていた小型犬たちは飼い主から離れてあちこちを走り始めた。

外での動きはキビキビしている。ドッグスポーツなどいかにも得意そうである。嗅覚スポーツもお手のもので、私はこれまでに何度もこの犬種がノーズワーク競技会で上位に入るのを見てきた。活発な犬ではあるが、ミニチュア・ピンシャーのような強烈なアクティビティレベルでもない。そして家ではゆったりと落ち着いてくれるそうだ(もちろん必要な運動量を与えられた上でのこと)。そして何がいいって、見かけはテリア風なのだが、テリアのような爆発的気質を持っていないこと。FCIのグループ分けではテリアグループ(グループ3)ではなく、番犬、警護、作業をする使役犬が集まったグループ2に属している。ちなみにこのグループに属している多くの犬種は農場で役立つ犬として働いていた歴史を持っている。

これまでレトリーバーばかり飼ってきた私はこんな小型の犬もマスコットとしていいかな、とちょっと思ってしまった。あらら、こりゃいかん。やっぱり酔いがまわってきているようだ。夏至祭ならではの白夜の夢、としておこう。

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