フランスのハウンド文化を見たければ…! フレンチ・ゲームフェア

文と写真:藤田りか子

この時期、ヨーロッパでは各地でゲームフェア(=狩猟フェア)が開催される。ヨーロッパにおいて狩猟は大きなホビー。秋の狩猟シーズン前にフェアで開催されるイベントに多くの狩猟ファンが訪れる。のみならず、犬ファンにとってもゲームフェアは最高のイベントだ。なにしろ狩猟と犬というのはヨーロッパでは切っても切れない関係。猟犬の競技会や作業能力のデモンストレーションなど犬モノ・イベントは目白押し。犬をめぐってのその国の狩猟文化を垣間見ることができるので、私のような犬種オタクにとってゲームフェアはまるで天国なのである。

所はフランス・パリから車で約一時間半。その南西部に位置するロワール河にそった地域。シャトー・デ・シャンボーンというフランスとイタリアの古典的建築様式がブレンドした素適で巨大な宮殿がある。その昔、王様であるフランソワ一世が猟のときに使った宿(宿にしてはものすごい大きさの城である)だそうだ。ここで2013年までフランスで一番大きなゲームフェア「Game Fair」が開催されていた(現在はロワール・エ・シェール県にあるParc Equestre Federal(国営乗馬公園)に場所を移した。次は2022年開催)。

シャトー・デ・シャンボーン。

ゲームフェアといえばイギリスが有名だが、そこでは主にレトリーバーやスパニエルといった鳥猟犬がメインとなる。犬を連れている人も、パナマ帽をかぶっていたりオイルジャケットを身につけていたりと、まるでBarbourの宣伝でも見ているかのような世界だ。だがフランスではハウンドとコスチュームに身をつつんだハントマスターが主役であった。おまけに馬に乗っている。まるで1800年代にいるかのようだ。

各ハント(ハウンド犬の犬舎)にはそれぞれの特徴を持ったハウンド犬がいて、そしてコスチュームもそのハントだけのオリジナルだ。狩猟の時に鳴らすラッパのファンファーレも、各犬舎で独自のイントネーションがあるそうだ(私には全部同じに聞こえたが)。

ファンファーレが鳴り、馬が走る。数百匹のハウンドが馬のテンポにあわせて駆け回る。騎乗しているハントマスター達はロングコートに身をつつみ、ラッパを鳴らす。各パック(=犬の群れ)は、一様の色とパターンを持ったハウンドで成り立つ。

フランスのハウンド種は種類が豊富だ。ゲームフェアはそれを一気に見られる稀な機会でもあるだろう。イギリスのゲームフェアでもハウンドを伴ったイベントはいくつかあるのだが、犬種はフォックスハウンド、ビーグル、バセットハウンド、オッターハウンドなど種類が限られている。フランスのゲームフェアなら、ビーグルはもちろん、ビーグル・ハリアー、ビリー、ポアトヴィン、ポルセレーヌ、ガスコン・サントジョア、フレンチ・トリコロール、グラン・アングロ・フランセ、グラン・グリフォン、グリフォン・フォーヴ・ド・ブルターニュなど見たことも聞いたこともないハウンドに出会える。そして色もトライカラーのみならず、バイカラーにマールに短足犬、とタイプも豊か。

ハウンドだから、レトリーバーやスパニエルのように何か技を見せてくれるわけではない。ひたすら騎乗したハントマンに群れでついていくだけのパレードでイベントは成り立っている。だが、数が数だけに、そのパレードは圧巻だ。

ハウンド犬は各ハントごとの大きな囲いに入れられている。囲いにはハントの名前、犬種名が記されている。

フランス語で猟一般はチャセーと呼ばれている。ハウンドのパック(群れ)を伴い獣を狩る獣猟については特別の言葉があり、ヴェネリーと言う。フランスにはヴェネリー協会というのがあり、そこがパック・ハンティングの統括、登録を行っている。協会の統計によると、フランス全国にパック・ケンネルは392犬舎、ハウンドの頭数は17,000頭、馬は7,000頭(猟で騎乗するときに使われる馬の人口)、そして猟期には約10万人が参加する。これはこの数全ての人が猟をするというのではなく、猟についていく見物人も含む。イギリスではパックで狩りをするのは法律で禁止されたが、フランスではまだOKだ。

「フランスの猟は、イギリスのように上流社会のおつきあいごと、っていう風に、外を遮断することはないからね。猟についていきたかったら、誰でもウェルカム。それで猟は社会的に受け入れられているっていうのかな、反対者が少ないのはそのためなんだ」

と、とあるフランスの狩猟雑誌の編集者が説明してくれた。

今はコロナでゲームフェアといった大イベントは軒並み中止となっているが、また世の中が元通りになったら、ぜひまた訪れたいと思っている。今度はフランス田舎の小規模でローカルなゲームフェアがいいなぁ。