文:藤田りか子
[Photo byJack Berry]
犬のカラーパターンはいろいろあるが、その中でもブラックとタンのコンビネーションは不思議と多くの愛犬家の気持ちをそそる色だ。
「ダックスフンドなら昔ながらのブラック&タンが絶対いい」
と昭和のダックス・ファンは言うし
「キャバリアのブラック&タンの子を探しているんです」
「コッカーのブラタンに憧れる」
となど、レアもののカラータイプとして珍重されていることもある。ウルフカラーやセーブルがナチュラルで動物っぽい柄である一方、ブラック&タンという色配合はあまり野生界に見当たらない。それだけに“純血犬種特有の洗練さ”、というものを感じさせてくれるのかもしれない。大型犬なら精悍なだけでなくクール、小型犬なら可愛いだけでなくシックな印象を与える。さらにありがたいのは、この毛色同士をいくらかけあわせてもたとえばマール同士の交配のように色素を失って健康に害をもたらすとといった遺伝的弊害はない。その健全性もいいのである。
タンマークの魅力
ブラック&タンという言葉を初めて聞く方のために簡単な説明をくわえておこう。これは犬被毛色のパターンで、黒地に赤っぽい茶色のマーク(これを犬界用語でタンマークという)がついているコートの柄を指す。ドーベルマンのコートが典型的なブラック&タンだ。タンマークの場所としては、目の上、マズル、胸、脚、耳の中。が、時にタンマークがどす黒くなって、まわりと区別がつかなくなっている場合もある。ブラック&タンの個体かどうかを調べるには、尾の裏が茶色になっているかをチェックするといい。
ブラック&タンの魅力はその粋な配色もしかりだが、なんと言っても目の上の丸いタンマークだろう。そのために「まろ」という名をつけられている犬もよくいるものだ。欧米では「四つ目」とあだ名がつけられているのも面白い。
目の上のタンマークがチャームポイントとなるのは、それが人間の眉毛のような役目を果たし犬の表情をとても豊かにしてくれるからだ。犬にとってもタンマークのあるフェイスの方が真っ黒の顔よりは得かもしれない。真っ黒の個体を見て怖がる犬が巷に多いのは、黒さのために相手の顔の表情が読みにくいからだ。ブラック&タンの犬であれば目の位置もわかりやすいし、頬が茶色だから口の表情も見て取りやすい。
ブラック&タンを持つ犬種たち
①ブラック&タンというコートカラーは出すのが難しい色というわけではなく、健全な色彩だけに様々な犬種に見られる。それだけに人々の目につきやすく、ファンが多いのもうなずける。
まずカラーバリエーションの一つとしてブラック&タン登場の頻度が比較的高い犬種は
- ダックスフンド
- チワワ
- ドーベルマン
- ミニチュア・ピンシャー
- アフガンハウンド
- サルーキ
- ホフヴァルト など
今でこそ様々なのカラーバリエーションが出ているが、一世代前ではダックスフンドといえば、ブラック&タンかレッドが主流。古き良きダックスフンドに憧れる人には、今でもブラック&タン・ファンが多い。
サルーキー [Photo by Rikako Fujita]
ホフヴァルト [Photo by Visa Kopu]
②次のカテゴリーはブラック&タンがカラーバリエーションの一つとしてあるのだが、それが珍しいという犬種。時には珍重されることもある。そんな犬種たちの一例が
- キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル
- キング・チャールズ・スパニエル
- ベルギー・グリフォン
- イングリッシュ・コッカー・スパニエル
ベルギー・グリフォンとは不思議な犬種で、ワイヤーコートで赤に生まれればブリュッセル・グリフォンという別犬種となる。
ベルギー・グリフォン [Photo by Ger Dekker]
イングリッシュ・コッカー・スパニエルはチワワと同様にさなざまなコートカラーが認められているが、この犬種内でブラック&タンを探すのはけっこう難しい。ちなみにウィペットにブラック&タンがいるとかいないとか。とあるファンシャーによると幻の色なのだそうだ。
③最後のカテゴリーはブラック&タンがトレードマークの犬。つまりこの色しかない正真正銘のブラック&タン・ブリードだ
- ロットワイラー
- ゴードン・セター
- マンチェスター・テリア
- トイ・マンチェスター・テリア
- ブラック・アンド・タン・クーンハウンド
トイ・マンチェスター・テリア [Photo by Rikako Fujita]
ブラック・アンド・タン・クーンハウンド [Photo by Rikako Fujita]
どのブラック&タンを選ぼう?
ブラック&タンの犬だからって、その色による独特の性格なんてものはあるのだろうか。
同じ犬種内で様々なカラーが存在する場合は、その比較はしやすいだろう。そこでコッカーやダックス等様々な犬種のブリーダーに伺ってみたのだが、ある人は、ブラック&タンは他の毛色のコよりも活発な傾向があるというし、またある人はその反対を唱えることもある。ここから察するに、色のため、というよりあくまでもその犬の個性によりそうだ。
ブラック&タン・ファンシャーとして一番嬉しいのは、このパターンのコートを持つ犬種のタイプが多岐に渡っている、という点だろう。それだけ選択の範囲が広がることでもあり、自分にあった犬を選べる可能性は高くなる。
ブラック&タンコートのカラー遺伝の仕組みを知りたい人は、尾形聡子さんのこちらの著を参考に!詳しくのっていますよ!!