文:北條美紀 写真:藤田りか子
犬曰くムック「Sheepdogs and all about them」のインタビュー記事に登場するマデレーン・エリクソンさんと愛犬セッヴェのオビディエンストレーニングのシーン。マデレーンさんはオビディエンスの世界大会にスウェーデンの代表として何回か出場している筋金入りのオビディエンス・フリーク。
昨年12月、犬曰く第二弾のムック本『Sheepdogs and all about them』が発売された。前回にも増してインタビュー記事が多く、生き生きとした表現に何度も心が躍った。そこで改めて感じたことは大きく二つ。一つは「今ここ」、もう一つは「自己観察」。今回は、ムックに掲載された北欧のドッグトレーナーのインタビュー記事を引用しつつ、「今ここ」と「自己観察」について考えてみたい。この二つは、犬と暮らす上で間違いなく大事なことだろうし、私たち人間を自由で柔軟にするのにも役立つに違いない。
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「今ここ」に犬と一緒に存在していること
「今ここ」は、来談者中心療法を実践したカール・ロジャーズが用いた言葉だ。ロジャーズは、「正確な共感的理解とは、今ここでの現在(immediate present)の中にある、瞬間瞬間の敏感性なのである」「クライアントの今の存在(client’s being)に正確に敏感であることが、セラピィという瞬間瞬間の出会いのなかで最も大事なことである」と表現している。(中略あり:参考PDF)。
『犬の「遊び」と家畜化、牧羊犬とイェシカ・オーベリー』の記事の中で、「インテリジェンスではなく、オープンネス」と話すイェシカさんの言葉には、「今ここ」を強く感じさせられる。「子供の様に常に心は開かれていて、遊びが好き」という犬は、常に「今ここ」に熱中している(ちなみに、心理検査のBig Five人格検査におけるオープンネスは、「開放性」と訳されている。ご興味のある方はリンクを参照いただきたい)。
「犬との遊び」の重要性を日本に紹介したイェシカ・オーベリーさん。彼女のシープドッグに対するユニークな考え方をぜひ犬曰くムックで読まれたい。
反対に、人の心は何かにつけ過去や未来にもっていかれてしまう。これまでの経験が思考のパターンを形成し、自分の行動に一貫性を持たせようとするため、過去を参照しにいったり、未来を予想したりする。お陰で「今ここ」に熱中することが容易ではない。しかし、一緒に遊びを楽しもうと思ったら、「今ここ」の素材以上に面白いものはない。過去の経験や本などで仕入れた知識、理屈や理論も役立つかもしれないが、それを脳内に参照しにいっている間は、「今ここ」から心は離れてしまう。実に勿体ない。私たちの心は、すぐに余計なところにいってしまう残念な癖をもっている。そのことを肝に銘じて、素早く「今ここ」に戻ってこられるように注意しておきたいものだ。
これは、「犬を読む」という話にもつながってくるだろう。『明日のオビディエンス・スターを目指せ!』の記事の中で、マデレーン・エリクソンさんは「犬を読むことにすごく興味を持っています。こういう興味ってトレーナーとして大事」、「『あら、トレーニングに興味を失っているわね』という感じで読みます。そして、おそらくトレーニングが難しすぎたのかな、と分析します」と言っている。読むという言葉には、犬の感情を興味深く「感じ取る」ことや、自分自身の中に起きる