思い切って助けてみよう!ペットの止血法について:入門編

文:サニーカミヤ


四肢のケガによる出血の場合、止血部位からの出血が止まらないときはガーゼを重ねて圧迫し、包帯で下肢方向から上肢に向かって閉め付けすぎないように巻き上げます。

この連載を続けさせていただいているご縁で、獣医師を始め、さまざまなペット関係のプロの方々にお会いして、多様なペット事情を伺う機会が増えています。先日、大災害の時に捜索活動などで活躍する救助犬のトレーナーの方に災害現場での犬のリスクを聞いたところ、やはり四肢のケガが一番頻繁に起きているようでした。

たとえば、車が入れない場所で犬が足にケガをしてしまった、周囲に動物病院などがないエリアで犬がケガをしてしまった、飼い主とはぐれてしまった犬を見つけたらケガをしていた、などという場合「どうやって」「どこで」「どのように」救急処置をしていいのやら。基礎知識は頭にあっても、すべてのハンドラーが現場で「救急処置を速やかに実施できるか?」というと、心配な気持ちもかなりあるということでした。

たしかに災害現場は普通の状態ではないので、人間も犬も身を守る術として、ケガをしない&させない予防が大切ですが、万が一の時のために救急法を知っておくことは必要だと思います。

今日は、ペットが足を切るなどして出血したときの止血法についてご紹介いたします。まずは、ビデオ(英語)をご覧ください。


「How to Stop my Pet from Bleeding」(出典:YouTube)

ここからは救急の専門用語が多くなってきますが、読み慣れていただくとさらに内容が深く伝わってくると思いますので、がんばって読み進めてくださいね。

止血の手順 (下肢の場合)

※基本的に動脈性出血、または静脈性出血への直接圧迫止血の方法です。
※出血部位によって、止血方法は異なりますが使う救急資機材(包帯やガーゼ)は同じです。また、包帯やガーゼなどは人間用のものを使います。

❶ まず、感染予防用手袋(ニトリルグローブなど)を装着します。感染予防用手袋が無い場合は、破れていない透明のビニール袋を両手に1枚ずつ、被せて使うこともできます。もし、感染予防用手袋もビニールもがない場合は、自分の手を消毒用エタノールや手指の手洗いなどできれいにします。

❷ 包帯とガーゼ、傷を洗うための水道水が入ったペットボトルを準備します。
※抱き上げられるサイズのペットであれば、直接水道水で、傷を洗い流します。

❸ 出血しているペットへ近づく前に、上からガラスが落ちてくる状態ではないか?または、たくさんガラスが落ちている状態でないか?など自分(救助者)やペットが手足を切らないように予防します。

❹ ペットがどのような状態なのか?たとえば、ガラスが刺さった状態であるか?どこを切ってしまったのか?どの程度出血しているのか?を観察します。

❺ 普段は咬まないペットでも、怖いときや痛いときなどに咬むことがありますので、たとえ自分のペットであっても止血処置をする前に、口へマズル(口輪)などをつけて咬傷予防することをおすすめします。エリザベスやソフトマズル、綿包帯での咬傷防止も可能です。


止血処理をするためにマズル(口輪)をかけることをお勧めします。

❻ 出血部位を水道水で洗浄し、異物があれば洗い流し、やさしく水を拭き取ります。毛が傷口に入らないようにしながら、出血箇所を十分にカバーできる大きさのガーゼを4つ折りにした上から、約4分ほど出血部位の大きさに応じた指の本数で、痛みが伴わない程度の必要な強さで圧迫止血します。

❼ 出血が止まらない場合は、圧迫を解かない程度に最初のガーゼを抑えながら、2枚目のガーゼを重ねて圧迫します。概ね4分以上経っても出血が止まらない場合は、圧迫止血をしているガーゼの上から包帯を巻いて固定します。ただし、出血部位が首から上の場合は、窒息防止のため、綿包帯を使います。首から下は伸縮包帯を使うこともできます。

粘着包帯や固定テープ類は毛が付着してしまい、動物病院で外すときに傷口を広げる原因になることがありますので、直接、ガーゼの固定には使わず、まず、最初に綿包帯や伸縮包帯を巻いた上に粘着包帯や固定テープ類を使うようにしましょう。

また、伸縮包帯や粘着包帯は、ゴムですので、巻き付ける際に締めつけすぎないように注意しましょう。


足指の間に綿を詰めることで傷の悪化を予防することも可能です。

❽ できれば綿包帯の上から伸縮包帯を巻き、犬が包帯を噛んで解かないように固定を行います。伸縮包帯は締め付けやすいので気をつけてください。


ペット用の伸縮包帯。

❾ 出血部位の傷が開かないようにするためには、上肢まで包帯を巻き上げると、犬は体重を出血している足にかけようとしないため悪化を予防できます。


上肢まで包帯を巻き上げると、犬は体重を出血している足にかけようとしないため悪化を予防できます。

➓ もしガラスが刺さっていたら、抜かずにガラスの周りを固定するようにして刺さっているガラスが抜けないように患部を保護し、獣医へ搬送するように飼い主に勧めます。

ペット止血法の基礎知識

人間と同じように止血法は部位によってさまざまですが、基本コンセプトを知っておくことで、それぞれに応用できると思います。

【犬猫の血液量】
人間とほぼ同じく体重の7〜8%あり、そのうちの20%を急激に失うとショック症状が起きます。30%を失うと生命に危険を及ぼす可能性が高くなると言われています。ただし、子犬や子猫の場合は3〜5%でもショック状態に陥ることもあります。

【ショック症状】
体内を循環する血液が急激に失われることにより、重要臓器や細胞の機能を維持するために必要な血液循環が十分得られずに発生する、種々の正常ではない状態をショック症状と言います。

ショック症状が進行すれば、徐々に重要臓器の低酸素症をきたすため、正常な細胞代謝を傷害する悪循環に陥って臓器不全が発生し、死に至る危険もあります。出血性ショックの場合、脈拍は弱く速くなります。

また、犬は感受性が強いため、飼い主の死や花火などの爆音、急激な恐怖など精神的なショックによっても心肺停止するほどのショック状態になることもあるそうです。

【動脈性出血】
動脈性出血は強く吹き出すような出血で、鮮血が脈打つように噴出するため、ためらわず緊急な直接圧迫止血が必要です。

四肢の轢断など短時間に大量の出血が予想される場合は、轢断部の保護と止血処置と同時に腋窩動脈、大腿動脈などの動脈圧迫止血や止血帯による処置も有効。ただし、止血開始時間を記録しておき、ペットの体重に応じて健康な組織が壊死しないように約30分に1回は血流を促すこと。

【静脈性出血】
静脈性出血はじわじわと湧き出るような出血で、赤黒い血液が持続的に湧き出てきます。ガーゼなどによる圧迫止血と包帯などによる圧迫箇所の固定を行わなければ、徐々に大量出血となり、ショック状態にもなり得ることがあります。

【毛細管性出血】
擦過傷などによる薄くにじみ出るような出血ですので、水道水による洗浄後、ガーゼなどで軽く叩くように乾かして、ワセリンを塗布した上に、滅菌ガーゼなどによる傷の保護を行ってください。
※負傷した部分の水道水での洗浄後、毛が傷口に入らないように薄くベビーワセリンを塗ることで、傷の保湿やガーゼを剥がすときの痛みや傷の拡大を防ぐことができます。

【止血法の対象】
出血が認められても、反応や呼吸が普段通りでなければ救命処置を優先します。そして外出血や大出血を認めた場合は、他の救助者により直ちに止血の処置を行います。止血の方法は、直接圧迫止血法を行います。

【止血の方法】
直接圧迫止血法をおすすめいたします。

【出血部位を抑える材料】
滅菌ガーゼや三角巾、滅菌タオル、包帯、伸縮包帯、テープなど。

【圧迫の行い方】
出血部分にきれいなガーゼやタオルなどを重ねて当て、その上から手で強く約3〜4分圧迫します。必要に応じて、片手、両手、体重をかけて圧迫して止血を行います。

【血液感染予防】
ペットから人への血液感染はまれですが、万が一に備えてディスポーザブル手袋などで感染防止を行ってください。手袋がなければコンビニなどでもらう買い物袋でも効果があります。

ペットセーバーの「ペットの救急講習」のなかで、よく質問を受けるのがペットから人への感染症についてです。その代表的なものは、皆さんがよく耳にする狂犬病ですが、日本ではまず考えられないようです。厚生労働省のサイトを参考にしてください。

狂犬病|厚生労働省
狂犬病について紹介しています。

その他、犬以外の動物たちからの動物由来感染症についてはこちらをどうぞ。

動物由来感染症
動物由来感染症について紹介しています。

ペットの救急法は人間の救急法と手順も処置も似ていますので、覚えやすいと思います。ぜひ、思い切って助けてあげてくださいね。


ここにご紹介したコンテンツは、私がインストラクターとして所属している2つの団体、アメリカ最大のペット救急法指導団体であるPetTechのThe PetSaver™ Program、そして、消防士のためのペット救急法指導団体、BART(Basic Animal Rescue Training)から出典しています。

本記事はリスク対策.comにて2016年10月17日に初出したものを一部修正し、許可を得て転載しています

文:サニー カミヤ
1962年福岡市生まれ。一般社団法人 日本防錆教育訓練センター代表理事。元福岡市消防局でレスキュー隊、国際緊急援助隊、ニューヨーク州救急隊員。消防・防災・テロ等危機管理関係幅広いジャンルで数多くのコンサルティング、講演会、ワークショップなどを行っている。2016年5月に出版された『みんなで防災アクション』は、日本全国の学校図書館、児童図書館、大学図書館などで防災教育の教本として、授業などでも活用されている。また、危機管理とBCPの専門メディア、リスク対策.com では、『ペットライフセーバーズ:助かる命を助けるために』を好評連載中。
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