裏路地散歩をつづけて

文と写真:尾形聡子

私が暮らす東京の下町はとかく狭い道が多い。裏路地だらけだ。ゴチャゴチャとした裏路地を通れば、散歩をしながら日々の生活にまつわるいろんな景色が見えてきて飽きることがない。

なによりも、裏路地が多くていいのは、目的地が同じであっても毎回の散歩道を変えやすいこと。もちろん犬たちがそれぞれに好きな道もあれば、私自身が好きな道もある。けれど、散歩のたびに違う道を通れば出会う犬も違い、道端に落ちているにおいも違ってくる。毎日の散歩に簡単にバリエーションを持たせられるというのはとてもありがたい。犬たちも15歳を過ぎてそれほど長く歩きたがらないときもあるのだが、道が多ければ散歩道のマンネリ化を防ぎやすく、とても助かっている。

とはいえ楽しかったり、ありがたかったりすることばかりではなく、狭い裏路地を散歩するのは大変だと思うことが実に多い。すれ違いだ。裏路地といっても軽自動車が通れないくらいの道幅から、人が横に2人並んで歩けばいっぱいになるような細い道まであるが、いずれにせよ、道幅が狭いとある程度快適にすれ違うためのスペースが物理的に取れなくなってしまう。

幅の狭い道を歩いているとき、向こうの方からよく吠えてくる犬がやってくるのが見えればUターンすることもままある。ぎちぎちに短くリードを持っても、お互いの犬同士を壁側にしてすれ違わなければ否が応でも鼻面を突き合わせることになってしまうからだ。相性のよくない犬同士の場合、お互いに快適なスペースがなければすれ違いはストレスにしかならないだろう。さらに、すれ違うときには自分だけが気をつければいいわけではないところが難しい。


昔、川が流れていたという道。この先には上野の不忍の池がある。

普段の散歩では、基本的に犬たちを自分の左右につけて歩くようにしている。片手に1本ずつリードを持って、それぞれの動きに反応したいためだ。とはいえ、そのスタイルだと長いリードはご法度。よくある120から180センチくらいのリードをそのままの長さで使っていたら、細い道であれば簡単に道を占領することになってしまう。

なので、普通に道を歩くときにはナスカンにリードを通して3分の1に折りたたんだ状態で歩くのが常だ。それでも両側に犬がいるので、我々とすれ違うときにはみんな必ず犬の脇を通らなければならなくなる。犬が苦手な人からは嫌な顔をされることはしばしばだし、あからさまに避けられることもある。ストレートに「広がって歩くな」と怒鳴られたこともあるくらいだ。

出会いがしらのバッタリにも注意しなくてはならない。細い路地がクロスするようなところはまったく見通しがきかない。1メートルでも私の先を犬が歩こうものなら、自転車が勢いよく角を曲がってきたらぶつかること必至だ。


裏路地同士を結ぶ私道。こういう細い私道もまだまだたくさん残っている。

とはいえ、短いリードは散歩中に犬が感じるストレスを与えかねない。自由に動ける範囲を限られたものにしてしまうのはもちろん、散歩の道中で自分の好きなスペースを取って歩きにくくなってしまうからだ。

通常の道ではリードを短くしているが、公園などの広い場所へ行ったら折りたたんだリードを伸ばして普通の長さにし、自由度を上げたり場合によってはロングリードに付け替えるようにしている。そんな散歩を続けていたら、いつの間にかリードを長くすることが「ここからは自由にしてもいいのですね」という合図になっていた。散歩中のオンとオフの区別がつけられるようになったということは、短いリードに由来するストレスもそれほどには強く感じなくなっているのではないかと考えている。

もちろん、散歩の最初から最後までなるべく犬が自由に歩ける方がいいという考え方もあるだろうし、そっちの方が主流かもしれない。しかし、それは犬と飼い主との関係性によっても違ってくるだろうし、同じ犬でも若い時と歳をとってからとでも違うだろう。どんな環境で散歩をするかによってももちろん違う。普遍的なリードの長さというものは簡単には存在しえないのかもしれない。

ともあれいつもハラハラしてしまうのが自動巻取りするタイプのリード。あれを狭い道でシュルシュルと伸ばして散歩をしている姿をたまに見かけることがある。犬が飼い主より先の方を歩いていれば事故につながる可能性も高いし、見えにくいロープに誰かが引っかかってしまうこともあるかもしれない。そして犬が苦手な人にとっては、ただただ恐ろしいと感じるばかりではないだろうか。

また、シュルシュルと別の犬に近づいていけば、犬同士がよからぬ接触をはかることにもなりかねない。相手の犬が嫌がっているサインを見せていても、距離が遠ければ飼い主はそれに気づきにくくなってしまうと思う。トラブルを避けるには、犬同士の距離がある程度あることが必要だと思う。

しかし裏路地散歩を続けていて思うのは、犬と自分の散歩中の関係もさることながら、犬が苦手な人がより苦手になってしまわないよう、人の往来が多い場所では飼い主である私たちが十分に気遣う必要があるということだ。そこは自分自身、まだまだ配慮が足りていないと反省しているところでもある。

いろんな人たちが暮らす街で、毎日気持ちよく犬と散歩が続けられるように。犬と自分とのことだけでなく、歩行者のことも考えての散歩中のリードの長さについて、今一度考えを巡らせてみてはいかがだろうか。