子犬が今晩やってくる

文と写真:藤田りか子

今晩子犬がやってくる。「パピーがやってくる…?今からパピープランを作ろう!」の記事で予告した通り、名前はやはり「シャチ」となった。血統書名にも犬舎の名前のあとに「シャチ」と入れてもらった。

血統書名に名前を記すからには「シャチ」にアルファベット表記が必要となる。シャチを単純にShachiと綴るのではあまりにも芸がなさすぎるので、パートナーのカッレにいくつか案を出してもらった。提案は Shatchee、Shachee、Shaachi、Schachi、Sha’chi、Xhachi。結局綴りが「可愛いよね」っていうことで「Shachee」に決定。よって正式名はWillowridge Twelve Shachee。犬舎名はWillowridgeだ。その犬舎の12番目のブリーディングなので、Twelveという接頭辞がつけられている。

数週間前、ブリーダーのKさんが声をかけてくれた。

「うちに来て、子犬を見たら?」

そこで初めてわかったのだが、Kさんが私のパピーを選んでくれるのかと思いきや、なんと「自分で選んでもいいよ」と言ってくれたのだ。あちゃー、これには参った。何しろ5〜8週齢の子犬など、どうこの先性格や行動パターンが変わっていくかわからない。どうやって選べばいいものやら…。尾形聡子さんが記事「子犬時代の認知テストから、成犬時の認知能力や行動を予測できるか?〜家庭犬の場合」でも同様なことを述べている。8週齢未満の子犬にパピーテストしても脳はまだ発達途上だし、性格は年齢とともにより安定してくるものだからだ。

対面したのは10頭の黒と黄色の小ラブたち。ご飯を食べた直後だったので、みな庭にでてぴょんぴょんと小さな運動会を繰り広げていた。いや、一部は木のまわりでモソモソと探索。かと思えば、一頭でぼんやりと遠くをみていたり、次の瞬間には木の枝をゴリゴリ齧り。はて、どうやってこの中で一頭選べばいいものやら。パピーテストをしても意味がなさそうだから、その提案すらせずに、呆然としてパピー集団を眺めていた。

一応、テニスボールを転がしたり、紙をくしゃくしゃにまるめて投げてはみた。それが目にとまれば、どの子犬も興味を持って追いかけていく。そして木の枝で引っ張りっこ遊びを試してみると、これまたどの子も一様に上手に応じてきたのである。

「やっぱりもともとの血統がいいから、粒がそろっているのだろう」

そう考え、そこから以下のように結論を出した。

「というわけで、どの子を選んでも同じだ!あとは運次第!」

Kさんも

「日々、パピーたちは行動を変えるからね。今日、勢いがいい子だなーと思えば、翌日は寝てばっかりだったり。ぼんやりしているなーと思えば、ある時急にシャキシャキしてみたり。私ですら、一頭選べと言われても選べませんよ、こうして毎日見ているにも拘らず!」

と笑いながら話してくれた。こうして私は自分の結論について確証を得た次第だ。こうなれば、お決まりの「この子と目があったから」作戦しかないと思った。ただし、どの子犬とも目が合わなかった。みな遊びに夢中なのだ。

「来週、もう一度おいで、そのときはもっと子犬の行動がはっきりしてくるから」

とKさんに言われた。ではお邪魔しました、と帰り際。ぴょんぴょんとこちらに一頭の黒い雌の子ラブがやってきた。背中にピンクのマニキュアの印が付けられた子だ(Kさんは子犬たちの体にマニキュアで個体識別の印をつけていた)。そしてしゃがみこむと、ぺろぺろと顔を舐めまくり、しばらく私の周りにいた。いっしょに来ていたカッレは

「その子が、運命の子だな!」

とケラケラ笑った。いやいや、そんな簡単にはなびきませんぞ、と思いつつ、来週こそ本当に子犬選びができますように、とその日を待った。それが今から数日前の木曜日。というか、もうこの日に選ばないといけなかった。というのも翌日の金曜日には獣医さんのところで健康診断をした後にマイクロチップの挿入、そのID番号がすでに名前が書き込まれている血統証書に登録される段取りとなっていた。

そして迎えた次なるKさん宅訪問。到着すると子犬たちはお昼寝タイム中。が、しばらくして、一頭の子犬が寝床から私の方へもそもそとやってきた。それが図らずとも背中にピンクのマニキュアがついた子だった。ありきたりではあるが、こうなれば、何かのご縁だろう。それはKさんもカッレも理解していたようで、

「その子でいいんじゃなーい?」

と後押しをしてくれた。

「こんな安易に選んでもいいのかね〜」

というわけで「背中にピンクのマニキュアがある子」がうちの子になることがきまった。そして金曜日にはチップが挿入され、Willowridge Twelve Shacheeと記された血統証書にそのチップ番号が記載された。

その子を今晩迎えにいくところである。