文と写真:五十嵐廣幸
犬が歩みを止めて地面に釘付けになる。私たち人間には気がつかないなにかを見つけたのだ。黒く湿った鼻を地面に近づかせて情報を収集中だ。気が済むまで匂いの分析をしたあとは「上書き保存します」と言わんばかりに、オシッコを残して次の場所へと移動する。散歩コースが住宅街でも、森の中でも、川沿いの州立公園、巨大なドッグパークであっても彼女は同じように匂いを取り、オシッコ残していく。私はオーストラリアで毎日こんな風に犬と散歩を楽しんでいる。それが犬としての正常な行動であり、犬にはそれをする権利があるからだ。
散歩中の排泄は国際的動物福祉の基本とされている「5つの自由」の中にある「2.不快からの自由」「5.正常な行動を表現する自由」に触れると言っても過言ではないと思うのだが、東京都では散歩中に犬にオシッコをさせてはいけないらしい。
- 散歩の前に、犬の排泄は、すませてからお願いいたします。
- 散歩の際、フンの回収袋やオシッコの洗い流し用ペットボトルなど十分な量の水を持参しましょう。(水洗いのために、ペットボトル2本程度(約1リットル)を携帯しましょう。
- やむを得ずオシッコをしたときは、すぐに十分な水で必ず洗い流しましょう。フンについては、自宅に持ちかえりをお願いいたします。
上記は東京都目黒区役所のHPに書かれているルールだが、東京都福祉保健局や他の多くの区役所でも上記とほぼ同様なことを示している。また一部の自治体では「犬は訓練をすれば、家の中で上手にトイレをすることができます。トイレのために犬の散歩に行くのでなく、家の中でトイレをしたご褒美に散歩に行くようにしましょう。」としている。
私の住むメルボルンではウンチを取らないことに対しては200ドル(約16,000円)の罰金が科せられる。しかし東京都のような「もしオシッコをしてしまったら水で流してください」「犬の排泄は散歩の前にすませてからお願いいたします」といったルールはなく、公園の芝生の上や電柱などにオシッコをしても怒る人は誰もいない。また家の前の歩道で排泄してもほとんどの人は気に留めることもない。
同じ犬という動物なのに。東京とメルボルンではなぜこんなにも人々の犬への扱いが違うのだろうか?