世界初!野生のペンギンを護る犬〜マレンマ・ペンギンプロジェクト〜

文:五十嵐廣幸  写真:Warrnambool City Council


ミドルアイランドのマレンマ。

マレンマ・シープドッグが野生のリトルペンギンを護っているという実話を基にした映画“Oddball(オッドボール)”に私は現場の録音部として携わった。この映画は2015年にオーストラリア全土で公開され爆発的なヒットを記録、3ヶ月間というロングランの上映になった。愛犬アリーも出演してエンドロールには彼女の名前まで出ている。マレンマ・シープドッグの奇跡が起こった街は、保護犬だったアリーと出会った場所でもある。余計にこのストーリーは感慨深く、強い縁を感じずにはいられない。今回は、世界初ペンギンを護る犬、マレンマ・ペンギンプロジェクトを紹介しようと思う。まずはこちら映画のトレイラーからどうぞ!

メルボルンから南西265kmにある海辺の街Warrnambool。そこに約2ヘクタール(6,050坪)のミドルアイランド(Middle island)と呼ばれる小さな島がある。ここでは10月から3月までの間、体長30cmほどのリトルペンギン(学名:Eudyptula minor)が繁殖にそなえて島に上陸する。1999年には600という大きな数のペンギンのコロニーが確認できたほどだ。このペンギンにとって楽園のようなミドルアイランドも、干潮時になると島に渡れることをキツネが覚えてからというものペンギンの数は急激に減り続けていった。2004年10月20日の地元紙The Standardは”360羽ものペンギンがキツネによって殺された”と一面で大きく報じたほどだ。その被害のせいもあり2005年になるとペンギンのコロニーは僅か10ヶ所にまでに減ってしまった。自治体はキツネからペンギンを護るために銃を使ったり、毒の餌を使ったり、罠を仕掛けたりもしたが、その被害を食い止めることが出来ずにいた。

地元でフリーレンジ(放し飼い)の養鶏業を営んでいるAllan “Swanpy” Marshさんは、Oddball という名前のメスのマレンマ・シープドッグ(以下マレンマ)を飼っている。マレンマはイタリア原産の羊などの家畜を外敵から護る牧畜番犬である。そう、Oddballは、放し飼いのニワトリを外敵から護っているのだ。ミドルアイランドのペンギンの減少を憂いたSwanpyさんは、自分の農場のニワトリと同じようにマレンマを使ってペンギンを護れるのではないか?と考えた。

「ニワトリもペンギンも同じ鳥、一方がまるでタキシードを着ているような模様であるだけの違いだよ」

マレンマを使ってペンギンを護る提案を自治体にすると「犬がペンギンを殺すかもしれない」「犬が穴を掘ってペンギンの巣を壊してしまうのではないか?」といった反対意見がでた。しかし様々な方法をもってしてもキツネからの被害を食い止めることが出来なかった自治体は、Swanpyさんのマレンマ・ペンギンプロジェクトを検討することにした。

2006年11月、SwanpyさんとマレンマのOddballはミドルアイランドでペンギンをキツネから護る4週間のトライアル期間に入った。Swanpyさんは最初の4日間だけ島で寝泊まりしながらOddballを見護り、犬とペンギンとの関係を観察したという。そのOddballの行動は、フリーレンジのニワトリを見護っているのと全く同じ様子だった。また、Warrnambool自治体の担当者であるDavid Williamsさんは、当時の様子をこう述べている。

「Oddballはペンギンの巣穴の匂いを嗅ぐなどして島のあちこちを歩きまわっていた。そして島の端にはまるで自分のテリトリーとするように尿などの排泄をしてにおいを残していた。キツネはそのにおいがあるために島に近づくことをやめたのではないだろうか」


ミドルアイランドのEudy。

マレンマ・ペンギンプロジェクトの第1回トライアルは、この10年間の中で初めてペンギンがキツネから殺されなかった1ヶ月間という喜ばしい結果を残すことができ、Oddballが島にいる効果が実証された。

2回目のトライアルにおいて、11羽の幼鳥と6羽の成体のペンギンが死んでいるのが発見された。このトライアルではOddball ではなく別の12ヶ月齢のマレンマを使った。そのため若犬がペンギンと戯れて遊ぶなどして殺してしまったのではないか?と推測されている。この問題は今後もマレンマ・ペンギンプロジェクトを続けるべきか?という議論にもなったが、その後、成熟した2頭のマレンマに交代させるとペンギンは一羽として殺されることはなかったのだった。

2006年10月30日Warrnambool自治体は、マレンマが野生のリトルペンギンをキツネから護ることを正式に発表。その結果、イギリスのBBCに取り上げられたり、ニューヨークタイムズ紙の2面に掲載されたりするなどして、このニュースは16ヶ国語に翻訳され全世界に伝えられることとなった。SwanpyさんとOddball から始まったこのプロジェクトは現在、EudyとTulaという2頭のマレンマにその役目が引き継がれている。正式にマレンマを使ってペンギンを護るという方法が採用されてから現在までに、キツネによるペンギンの被害は確認されていない。また2005年には10まで減っていたペンギンのコロニー数の変化は以下のとおり。

  • 2013/2014シーズン:103コロニー
  • 2014/2015シーズン:130コロニー
  • 2015/2016シーズン:118〜123コロニー
  • 2016/2017シーズン:181コロニー

餌などの自然環境によって変動はあるものの、ミドルアイランドのリトルペンギンはマレンマによってキツネから護られ本来のブリーディングのサイクルを取り戻している。Warrnamboolの人々はペンギンを護る犬のことを、守護者の意味をつけてマレンマ・ガーディアンドッグと呼んでいる。Oddballは残念ながら、2017年2月に15 歳で虹の橋を渡ったが、彼女の死はオーストラリア全国紙The Ageでも報じられた。映画Oddballは日本で2018年に行われた映画祭で上映されたようだが、是非機会があればペンギンを護るマレンマの魅力を感じて欲しい。

最後に… そしてとっても大事なこと

ペンギンプロジェクトの自治体のHP にはマレンマ・シープドッグを安易に飼ってはいけないことについての警告が出されている。

マレンマは田舎や広大な場所をガーディングすることに適した犬だ。他の犬種を飼うときと同様、もしマレンマに興味があれば、この犬種について徹底的に調べること。自分のライフスタイルや住んでいる環境に合っているのか?それから決断をしてほしい。特にマレンマのような牧畜番犬は都会や郊外の住宅地、田舎であっても狭い敷地では飼うのに適してはいない。歴史的なその職業ゆえに、疑い深く防衛心は強く誰もが扱える犬ではない。

「どうしてまたやるの、犬種ブーム。ザギトワと秋田犬人気に物申す」でも触れているが、過去にあったシベリアン・ハスキーのような特定の犬種がトレンドになることは多くの場合、乱繁殖や飼育放棄に繋がりやすく、決して良い結果があるわけではない。

”白くてフワフワしていて可愛いから、ペンギンを護ってくれる優しい犬らしいから”

そういう安易な気持ちで犬を手に入れぬよう。牧畜番犬には牧畜番犬としてふさわしい環境と飼い方があるのだから。

【参考サイト】

Maremma Dogs | www.warrnamboolpenguins.com.au

文:五十嵐廣幸(いがらし ひろゆき)
オーストラリア在住ドッグライター。
メルボルンで「散歩をしながらのドッグトレーニング」を開催中。愛犬とSheep Herding ならぬDuck Herding(アヒル囲い)への挑戦を企んでいる。サザンオールスターズの大ファン。
ブログ;南半球 deシープドッグに育てるぞ