「うるさい子犬」にくわばら、くわばら

文と写真:藤田りか子

【Photo by tunaboat

子犬も8週齢にもなれば、「遊び」マシーンと化す。同胎の兄弟姉妹同士で取っ組み合い、追いかけっこ、噛んだり噛まれたり、そんなことを何週間か繰り返してきたわけだから、遊びはいわば子犬にとっての「仕事」でもある。そして兄弟姉妹から離され、いざ新しい家にやってくれば、子犬は当然「遊びたい」欲をどこかに向けるはずだ。新しい家庭にいた先住犬がいれば、まさにその格好のターゲットとなる。耳を引っ張ったり、ジャンプをしたり、時には正面から「ワンワン!」と吠えてみたり。

だが大抵の成犬は子犬の参入を温かくは歓迎しない。慣れるまでに数日から数週間かかることもある。いや、その新参者を一生好きになれない犬だっている。というわけで、遊びがいくら「子犬」の自然とは言え、我々は責任ある飼い主として先住犬の「平和」を確保するために配慮する必要もある。その折り合いの付け方については以前「先住犬に認めてもらう」という記事に綴った。

とは言っても成犬の出している「いやだ」のシグナルに飼い主が気がつかないこともままあるようだ。「成犬と子犬は仲良く」という理想のイメージに我々はどうしても囚われてしまうからなのだろう。でもそれでは先住犬を救えない。

そこで以下の動画を見て、成犬が発してる言葉の読解力を試されたい。ジャーマン・シェパード・ミックスの子犬が、成犬のラブラドール・レトリーバー(以下ラブ)とボーダーコリーに遊ぼうを誘っているシーンである。まずは音を消して見てみよう。

皆さんはどのような印象を受けただろうか?ラブは子犬に対してどんな感情を持っていただろうか?この動画の投稿者は「成犬がマナーに欠けた子犬をしつけている」と説明している。確かにそうではあるが、私の目を引いたのは、それよりもむしろラブの「この子犬イヤ、あっちへ行ってくれる?」という一連の訴えの行動であった。ラブが辛そうで気の毒に思えた。

子犬に嫌悪を感じている成犬には、二つタイプがあると思う。一つは「うるさいなぁ」ぐらいの感情でとどまる犬。もう一つは「気持ち悪さ」を感じて不安に思う(あるいは怖がる)犬。後者である場合、我々はその犬を救うためにも監視の目を強く持たなければならない。そしてこの動画を見る限りでは、ラブは後者であろう。何かにつけて、とても受け身であるのもその心許なさを物語っている。

ラブは何度も口角を短くし、時々う〜と唸った。そして顔を出来るだけ子犬からそむけては凍り付いたように固まって座る、あるいは人の側に陣どろうとした。耳は後ろに引かれ、目も不安そうだ。最後には撮影者のところにやってきてアイコンタクトを取る。まるで

「お母さん、もうこの子犬やだ、なんとかしてよ」

と言わんばかりに助けを求めて撮影者の横に座った。にもかかわらず子犬が遊ぼう遊ぼうと近づいてきた(子犬が成犬のあとを追うのは自然な行動)。ラブは最後にかなりはっきりとした威嚇行動を見せた。

「あっちに行って、って何度も言っているでしょ!」

最初は微妙な表現(体をこわばらせるなど)を見せていたが、1分そこらの間で強烈なものに変わっていった。

要はラブは子犬と何の接点も持ちたくないのだ。この気持ちを飼い主が受け入れるのは大事だ。動画は威嚇したところで終わったが、どうか撮影者がこのセッションで一旦中止し、子犬とラブの引き合わせを終わらせたことを願うのみである。何と言ってもパピーによっては激しく威嚇されても、一瞬ひるみはするがまた諦めずに執拗に遊びを続ける子もいるのだ。

君のようなうるさいちびっことは関わりたくないね、と顔をそむけたラッコ。子犬のアシカが我が家にやってきて翌日のシーン。

嫌がっている成犬に対して「子犬の社会化のため」といって無理矢理に子犬にあわせ続けるのはあまり感心できない。この状況であればラブがアイコンタクトを求めてきた時点で助け舟を出してあげるのが飼い主の優しさであり役目であり、そして責任でもある。一方子犬に関しては、行動がエスカレートすれば子犬が動き回らないように抑える、どこか別の場所に移動するなど、とにかくタイムアウトを設けて状況を改善すべし。ゆったりと時間を与えながら徐々に慣らすのであればストレス状態を作らないですむ。うまく行けば数週間後には仲良くなって一緒に遊び始めるかもしれないし、あるいはとりあえず相手を受け入れるぐらいまでには落ち着く。

そして子犬の社会化トレーニングとして他所の成犬と交流させる場合は、経験の豊かなゆったりと構えた犬に会わせることをオススメする。だからと言って、成犬が子犬とすぐに意気投合して微笑ましく遊ぶ、というのは期待しないように。さらにこんな逃げ場のない狭い部屋ではなく、広い屋外で行うのが望ましい。もしかして動画のラブだって、もっと広いところでこの子犬に会っていたら、もう少し余裕を見せたかもしれない。逃げ場がない、というのは犬にネガティブな緊張感を与える。

まずは成犬にも無理のない状態で子犬を受け入れてもらうこと。その中で時々「行儀の悪さ」を戒められるのであれば子犬は健全に犬言葉と社会性を習得していくだろう。

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