愛犬、必ずしも「人が大好き」である必要なし

文と写真:藤田りか子

人をみれば大喜び!私たちは愛犬たるもの、人好きでなくてはならない、と信じているのでは?

みなさんの愛犬は知らない人に出会った時にどのような振る舞いをするだろうか。喜ぶあまり尻尾フリフリ飛びついてゆくタイプ? それとも人見知りするタイプ?

多くの人はできるなら「私の愛犬は人を見ると尻尾フリフリのタイプ」と答えたいのではないのだろうか。そのようなイメージを世間が好むというのもあるだろう。しかしアシカという犬と過ごすようになって「犬は社交的じゃなきゃだめ」という固定観念を少し緩めるようになった。それどころか

「いや、人にいちいち挨拶する犬よりも、知らん顔している子の方が連れていて楽ではないか」

とまで考え始めている。何しろ競技会の時などとても有利だ。他の人や犬に気を散らさないから、私に集中してくれる。おかげパフォーマンスの精度があがる。

アシカは知らない人にいくら好意的に近寄られても、顔をすっとそらすなどむしろコンタクトを避けようとする。かりにも彼女はラブラドール・レトリーバー。ラブといえば社交性に溢れる犬として知られている。となると、アシカ、心の病気か?それとも子犬の頃の社会化トレーニングが足りなかった?

いや、とんでもない。アシカはブリーダーのところで生まれてからたくさんの犬と人に囲まれ育ってきた。それこそ人を見れば明るくパタパタと尾をふっていたものだ。しかし一旦成長して(もうすぐ2歳!)私との絆を固めた今、他人はもうそれほど刺激ある存在ではなくなってしまったのだ。彼女にとってこの世は私との関係だけでもう十分。彼女と私はまるで外とは遮断されたシャボン玉の中にいるよう。そこでの状態は「♪ふ〜たりのため〜、せ〜かいはあるの〜♪」の歌詞通り。その意味で一人の飼い主だけに忠誠を尽くす日本犬のようでもある。

とは言ってもまぁそこはレトリーバーだ。日本犬よりはるかに社会的柔軟性はある。長期出張の間アシカは友人のもとに預けられるのだが、私を恋しがり悲しがるということもない。彼女は状況を察し「今はこの人が私と一緒にいてくれるのね」とその世話人の存在をすっと受け入れる。私はこのことに対して別にがっかりはしない。こういう現金な性格の方が人間世界で暮らすには楽であり、彼女の精神衛生にとってもいいことだと思う。

アシカにとって新しい環境、騒々しい街中、というのは全く問題にならない。ただし知らない人 に近寄り確認するということには一切興味をもたないし、また関わりたいという欲望もない。

「他人に興味がない性格」は決して稀ではない、と言うのはスウェーデンのドッグ・トレーナーであるイェシカ・オーベリーさん(「犬との遊ぶレッスン・テクニック」の著者)だ。彼女は探知犬やセラピードッグなど作業犬候補を選択するために多くの気質テストをおこなってきた。その中で感じたことは、

「50%の犬は実はそんなに人が好きでなかったりします。一見人が大好きに見える犬ですら、それは学習で強化されている場合がかなりあるのです」

「犬はフレンドリーな方がいい」という社会のノーム(基準)があるから、私たちは子犬の時から一生懸命に社会化トレーニングを入れる。子犬はトリーツをもらったり撫でてもらったりすることでポジティブに他人を経験する。人好きに見えるのはその成果にすぎない。そして本当に人好きなのか、それとも社会化学習のおかげで一見人好きに見えるだけなのか、を見分けるのは職業犬として犬を選んだりそして自分の犬を理解したりする上でも大事だとも。

他人が話しかけると、すぐさま側に行くラッコ。一見人好きに見えるが、彼の場合「人をチェックしたい!」という動機の方が強いようだ。

そういえば私のもう一頭の愛犬であるラッコも「一見人好きに見える」というタイプかもしれない。子犬の頃から社会化のトレーニングを十分受けてきた。よって人を怖がる事は一切なく、他人に話しかけられたりするとすぐに喜んで走ってゆく。が、その実「相手はどんなやつか」をチェックしているだけだったりするようだ。その証拠ににおいの確認が済んだらさっさとその人から離れる。

あるいは不安やストレスから相手を見ると飛びつく犬もいるだろう。多くの場合「超フレンドリー」とか「ハイパーアクティブ」などと呼ばれているものだ。それでも彼らが本当に他人が好きな犬なのか、こちらもどうも怪しいものである。

「人類すべてを愛する犬って実はそんなにいないですよ。犬にとっては家族だけで十分。だから自分の犬が他人に関心がないからといって、それほど嘆いたり恥ずかしがる必要はないんですけどね」

ただし、知らない人に対して無関心とはいえ、ビビりの性格とはまた別のものだ。それは混同されないように!人に無関心で構わない。しかし、怖がるようではやはり家庭犬の気質としては問題なのである。

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